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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第4章 約束

 王はもう本当に、遠い人になってしまったのだ。これで心おきなく現代に帰れるはずなのに、莉彩はその時、涙が止まらなかった。
 満月のその夜、莉彩は少し早めに床に入った。その夜に限って、この時代に来てからの色々な出来事が波のように次々に押し寄せてきて、何故か眠れない。
 それでも、悶々としている中に、いつしか浅い微睡みに落ちたようだ。
 莉彩はハッと眼を見開いた。
 眼を凝らしてみる。戸の外に蒼い光が漂っている。身体を起こして外を見ると、既に夜明けが近いようだ。
 風が吹いているのか、戸がカタカタと小さな音を立てて軋んでいる。布団を頭まで被ってみるけれど、やはり眠れない。
 起き上がって、床に座る。明け方の冷気で身体中が冷える。何か羽織ろうと思い立ち上がるが、身体中の力が抜けてしまい、くずおれるようにそのまま褥の上に座り込む。
 それでも、床から出て、部屋を横切った。
 両開きの戸を開けて廊下を真っすぐに歩くと、直に抜き抜けの廊下に至る。女官たちはまだ深い眠りの底にいるらしく、どの部屋からも物音一つしない。
 莉彩は吹き抜けの廊下に佇み、空を仰いだ。
 薄蒼い空に浮かぶのは、丸々とした月。
 吐き出す息が白く凍てついた大気に溶け出してゆく。なおも月を眺めていたその時、唐突に閃いた。
―新しき年の初めの月、最後に月の満ちる夜。
 突如として、あの暗号のようなフレーズの意味が浮かび上がってきたのだ。
 〝新しき年〟というのは、〝新年〟。更に〝初めの月〟というのは〝最初の月〟、つまり〝一月〟、〝最後に月の満ちる夜〟というのは文字どおり〝夜空に浮かぶ月が最後に満ちる夜〟を意味するのではないか。
 つまり、これらを繋げ合わせると、〝新しい年になって初めての月の最後に月の満ちる夜〟となる。
 莉彩は確信した。
 あの老人は、こう言いたかったのだ。
―今年(新しい年)の一月の最後の満月の夜。
 莉彩は息を呑んだ。
 昨夜から今朝にかけては満月、まさしく一月最後の満月の夜だ!
 莉彩は狂ったように走って部屋に戻った。
 急いで箪笥の引き出しの奥から、この時代に来た日に着ていた服を取り出す。カットソーやチュニック、スカート。どれもお気に入りのものばかりだ。

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