
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第4章 約束
「私が何故、そなたに近づかなかったか、そなたに判るというのか? どれだけ逢いたかったか、この胸にこうして思いきり抱きしめたかったか。逸る気持ちをじっと抑え込んでいたんだぞ? そなたはいずれ、元の時代に帰るべき身で、そなた自身も帰りたがっている。それに、私がこれ以上、そなたに拘わり続ければ、大妃はまた、そなたを傷つけようとするだろう。私さえ我慢すれば、大妃とて、そなたを無用に傷つけることはない」
「―殿下」
莉彩の声が、震えた。
「だが、私は、最後の最後まで未練な男のようだ」
王の声もまた、かすかに震えていた。
莉彩はそっと結い上げた艶やかな黒髪から簪をそっと抜き取った。
「殿下、この簪をよくご覧になって下さい。花びらが五枚ございますよね? リラの花は普通は四枚しかないのですが、稀に五枚花びらのついたものが見つかるのです。五弁花はハッピーライラックと呼ばれ、幸運の象徴としてお守りになるのだそうですよ」
王に差し示しながら、説明する。
泣くまいとしても、ともすれば声が震えそうになってしまった。
「そういえば、この簪を買ってきてくれた父が言ってました。簪を売っていたお店のお爺さんが、この簪は昔、朝鮮のさる王さまのお妃さまが持っていたって。引き離された恋人同士を必ずまた再会させてくれる不思議な力を秘めているそうです」
新たに滲んできた涙をまたたきで散らし、莉彩は無理に微笑みを作った。
「それは奇遇だな。もしかしたら、莉彩と私は前世でもこうしてめぐり逢い、莉彩は私の妃だったのかもしれない。そのような能力(ちから)を持つ簪ならば、いつか必ず我らを再び引き合わせてくれるだろう」
微笑む王の瞳にもまた光るものがあった。
「日本では、四月にはリラの花が咲きます。リラの花の咲く頃にまた、お逢いしまょう」
それは多分、永遠に果たされることのない約束。でも、莉彩はその時、王にそう言わずにはいられなかった。
「満開に咲くリラの花―、眼に見えるようだ―。莉彩、きっとまた、ここで逢おう。私は待っている。いつまでも、この場所でそなたを待ち続ける」
王の瞳は遠かった。もしかしたら、その瞬間、王の眼には、本当に満開に咲き誇るリラの花が見えていたのかもしれない。
「―殿下」
莉彩の声が、震えた。
「だが、私は、最後の最後まで未練な男のようだ」
王の声もまた、かすかに震えていた。
莉彩はそっと結い上げた艶やかな黒髪から簪をそっと抜き取った。
「殿下、この簪をよくご覧になって下さい。花びらが五枚ございますよね? リラの花は普通は四枚しかないのですが、稀に五枚花びらのついたものが見つかるのです。五弁花はハッピーライラックと呼ばれ、幸運の象徴としてお守りになるのだそうですよ」
王に差し示しながら、説明する。
泣くまいとしても、ともすれば声が震えそうになってしまった。
「そういえば、この簪を買ってきてくれた父が言ってました。簪を売っていたお店のお爺さんが、この簪は昔、朝鮮のさる王さまのお妃さまが持っていたって。引き離された恋人同士を必ずまた再会させてくれる不思議な力を秘めているそうです」
新たに滲んできた涙をまたたきで散らし、莉彩は無理に微笑みを作った。
「それは奇遇だな。もしかしたら、莉彩と私は前世でもこうしてめぐり逢い、莉彩は私の妃だったのかもしれない。そのような能力(ちから)を持つ簪ならば、いつか必ず我らを再び引き合わせてくれるだろう」
微笑む王の瞳にもまた光るものがあった。
「日本では、四月にはリラの花が咲きます。リラの花の咲く頃にまた、お逢いしまょう」
それは多分、永遠に果たされることのない約束。でも、莉彩はその時、王にそう言わずにはいられなかった。
「満開に咲くリラの花―、眼に見えるようだ―。莉彩、きっとまた、ここで逢おう。私は待っている。いつまでも、この場所でそなたを待ち続ける」
王の瞳は遠かった。もしかしたら、その瞬間、王の眼には、本当に満開に咲き誇るリラの花が見えていたのかもしれない。
