
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第4章 約束
莉彩と王の視線が絡み合う。
語るべき言葉は夜空を飾る星の数よりもあったけれど、今はもう、何も言えない二人だった。
「十年後、この場所で必ず逢おう」
「それまで、しばらくのお別れです」
莉彩の言葉に、王は胸を衝かれたようだった。
王は長い間、何かに耐えるような表情で眼を瞑っていた。
「莉彩」
漸く眼を開いた王が手を伸ばして抱きしめようとしたその時、莉彩の身体が揺らぎ始めた。
王の整った貌に愕きの表情がひろがった。
「莉彩ッ」
莉彩の身体は次第に薄くなり、輪郭がぼやけてゆく。
その可愛らしい顔が哀しげに微笑んでいた。やがて、莉彩の身体は完全にその形を失った。
王の眼の前で、莉彩はまさに霞のように消えたのだった。
「莉彩―」
王が最愛の想い人の名を呟く。
「嬉しかったぞ、大妃の前でああもはっきり好きだと言われて。あんなときなのに、私はそなたに慕われていると知って、本当に嬉しかったのだぞ、莉彩」
一条の陽差しが雲間から差してきた。
王がふと空を仰ぎ見ると、生まれたばかりの太陽が今日初めての光を地上に投げかけている。
月は、既に空のどこにも見当たらなかった。
莉彩、そなたは、真に帰ったのだな。
私の知らない時代へ。
二度と手の届くことのない、遠いはるかな時の向こうへと。
王の頬にゆっくりと涙が流れていった。
どれくらい時が経ったのか。
次に莉彩が自分を取り戻した時、彼女はしんと静まり返った橋の周辺に立っていた。
どうやら今は夜らしい。
見上げると、蒼ざめた満月が頼りなげに空に浮かんでいる。
五百五十年前にも見た満月、でも、あの夜、空に浮かんでいた同じ月ではない。
莉彩は茫然と周囲を見回す。
「帰ってきたんだわ」
一体、自分が姿を消してから、どれほどの時が流れたのだろう。
語るべき言葉は夜空を飾る星の数よりもあったけれど、今はもう、何も言えない二人だった。
「十年後、この場所で必ず逢おう」
「それまで、しばらくのお別れです」
莉彩の言葉に、王は胸を衝かれたようだった。
王は長い間、何かに耐えるような表情で眼を瞑っていた。
「莉彩」
漸く眼を開いた王が手を伸ばして抱きしめようとしたその時、莉彩の身体が揺らぎ始めた。
王の整った貌に愕きの表情がひろがった。
「莉彩ッ」
莉彩の身体は次第に薄くなり、輪郭がぼやけてゆく。
その可愛らしい顔が哀しげに微笑んでいた。やがて、莉彩の身体は完全にその形を失った。
王の眼の前で、莉彩はまさに霞のように消えたのだった。
「莉彩―」
王が最愛の想い人の名を呟く。
「嬉しかったぞ、大妃の前でああもはっきり好きだと言われて。あんなときなのに、私はそなたに慕われていると知って、本当に嬉しかったのだぞ、莉彩」
一条の陽差しが雲間から差してきた。
王がふと空を仰ぎ見ると、生まれたばかりの太陽が今日初めての光を地上に投げかけている。
月は、既に空のどこにも見当たらなかった。
莉彩、そなたは、真に帰ったのだな。
私の知らない時代へ。
二度と手の届くことのない、遠いはるかな時の向こうへと。
王の頬にゆっくりと涙が流れていった。
どれくらい時が経ったのか。
次に莉彩が自分を取り戻した時、彼女はしんと静まり返った橋の周辺に立っていた。
どうやら今は夜らしい。
見上げると、蒼ざめた満月が頼りなげに空に浮かんでいる。
五百五十年前にも見た満月、でも、あの夜、空に浮かんでいた同じ月ではない。
莉彩は茫然と周囲を見回す。
「帰ってきたんだわ」
一体、自分が姿を消してから、どれほどの時が流れたのだろう。
