テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第4章 約束

視界に入る景色はすべて見憶えがあり、どこといって時を飛ぶ前と変わりないように見える。
 莉彩は真っすぐ前を見つめ、足を踏み出す。
 これから始まる、彼女の新しい〝歴史〟を作るために。

 愕いたことに、莉彩が朝鮮王朝時代に行っていたのは、こちらの時間にすれば、わずか十日余りの出来事だった。あちらの世界では、十月中旬から年明けの一月まで四ヵ月近くも流れていたというのに、どうやら、時間の流れるスピードは、あちらとこちらでは微妙な差があるようだ。
 高校卒業後、莉彩は北海道の女子大へと進学した。初めて好きになったひとが別れ際に見てみたいと言ったリラの花を見るために、北海道へゆくことを望んだのだ。
 当時付き合っていた和泉慎吾とは、もう数年間、逢っていない。莉彩から別離を一方的に告げる形になってしまったけれど、あれで良かったのだと思っている。別に好きな男がいるというのに、どうして慎吾と今までのように付き合ってゆけるだろう?
 十数日も行方不明になっていた少女が突然帰還したことは、結構な話題になった。警察にも呼ばれ、莉彩は両親に付き添われて行ったけれど、何も憶えていないの一点張りで通した。結局、何者かに拉致され解放されるまでの監禁生活への恐怖が原因で、記憶喪失になってしまったのだ―と結論づけられた。
 莉彩が突如として消えてしまったことについては、やはり目撃者である慎吾とセダンの運転手の錯覚ということで片付けられた。科学捜査を第一にもって任じる日本の警察が、SF映画の中でならともかく、現実にそのような超常現象が起こり得るはずがないと頑として認めなかったのは当然だった。
 が、一方で週刊誌などでは〝不明女子高生、奇蹟の生還、現代の怪奇!〟などと、いかにも怪しげな記事が掲載されたこともあった。何と、莉彩がUFOに乗った宇宙人に連れ去られたという全く馬鹿げた内容のもので、莉彩自身も笑ってしまったほどだ。自宅にも何度かその手の雑誌記者が押しかけてきたものの、両親がすべてシャットアウトしてくれたお陰で、莉彩は興味本位の視線に直接晒されることはなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ