
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第5章 想い
想い
果てのない闇は、はるか彼方まで続いていた。たったひと晩だけではなく、それこそ無数の夜を重ねてもなおまだ足りぬほどの深い闇が彼を取り巻いている。
そう、あの女が彼の前からいなくなって以来、彼は無明の闇の中に捕らわれたままだ。彼にとって、あの女との出逢いは宿命とも言えるべきものだった。出逢うべくして出逢い、また、引き離れされてしまった愛しい女。
彼女と彼を無情に引き裂いたのもまた、運命と呼ばれる予め定められたものだ。女が消えてからというもの、彼にとっては周囲のすべてのものが色褪せて見えた。愛する者が去り、生きる甲斐を失っても、四季はうつろい、花は咲き、樹々は色づく。
しかし、どんな花の美しさも彼には何ほどの価値もない、つまらないものだ。いっそのこと、本当に世界の、この世のすべてが闇に塗り込められてしまえば良いのにと思うことさえあった。
あの女が傍にいない限り、彼にとっては長い夜は永遠に続き、けして朝が来ることはない。
この世から太陽がなくなろうが、どうなろうが、味気ない世界に変わりはないのだ。だが、残酷な時の流れは止まることなく時を刻み、夜は必ず明け、また、朝がやって来る。こうやって自分は一体幾つもの気の遠くなるような日々を繰り返してゆくのだろう。
ああ、莉彩(イチェ)よ。私は一体、どうやって、お前のいないこの無為の日々を過ごせば良いのだ? そなたのおらぬこの世界は、私にとっては、あまりに物足りぬ。
私はこうして生きて、物を食し、眠り、或いは廷臣たちが次々に上奏してくる意見書に眼を通し裁決をして玉爾を捺してはいるが、実のところ、自分でも何を考え、何をしているのか皆目判ってはいないのだ。
たとえ何人もの廷臣たちを前に玉座に座っていても、心はそこにはない。
私の心は莉彩、いつもそなたと共にある。何百年という想像もつかないほどの時を隔てた彼方にいるそなたのことだけを考えて、私は生きている。多分、今の私は生ける屍と化しているに違いない。
眼に映るものはすべて何の意味もなさず、自分が話している言葉すら、まるで全く別の人間が口にしている科白のようだ。
果てのない闇は、はるか彼方まで続いていた。たったひと晩だけではなく、それこそ無数の夜を重ねてもなおまだ足りぬほどの深い闇が彼を取り巻いている。
そう、あの女が彼の前からいなくなって以来、彼は無明の闇の中に捕らわれたままだ。彼にとって、あの女との出逢いは宿命とも言えるべきものだった。出逢うべくして出逢い、また、引き離れされてしまった愛しい女。
彼女と彼を無情に引き裂いたのもまた、運命と呼ばれる予め定められたものだ。女が消えてからというもの、彼にとっては周囲のすべてのものが色褪せて見えた。愛する者が去り、生きる甲斐を失っても、四季はうつろい、花は咲き、樹々は色づく。
しかし、どんな花の美しさも彼には何ほどの価値もない、つまらないものだ。いっそのこと、本当に世界の、この世のすべてが闇に塗り込められてしまえば良いのにと思うことさえあった。
あの女が傍にいない限り、彼にとっては長い夜は永遠に続き、けして朝が来ることはない。
この世から太陽がなくなろうが、どうなろうが、味気ない世界に変わりはないのだ。だが、残酷な時の流れは止まることなく時を刻み、夜は必ず明け、また、朝がやって来る。こうやって自分は一体幾つもの気の遠くなるような日々を繰り返してゆくのだろう。
ああ、莉彩(イチェ)よ。私は一体、どうやって、お前のいないこの無為の日々を過ごせば良いのだ? そなたのおらぬこの世界は、私にとっては、あまりに物足りぬ。
私はこうして生きて、物を食し、眠り、或いは廷臣たちが次々に上奏してくる意見書に眼を通し裁決をして玉爾を捺してはいるが、実のところ、自分でも何を考え、何をしているのか皆目判ってはいないのだ。
たとえ何人もの廷臣たちを前に玉座に座っていても、心はそこにはない。
私の心は莉彩、いつもそなたと共にある。何百年という想像もつかないほどの時を隔てた彼方にいるそなたのことだけを考えて、私は生きている。多分、今の私は生ける屍と化しているに違いない。
眼に映るものはすべて何の意味もなさず、自分が話している言葉すら、まるで全く別の人間が口にしている科白のようだ。
