
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第5章 想い
莉彩は小さな吐息を零し、首を振った。
と、再び音楽が鳴り、今度のメールは泰恵だった。〝莉彩、ごめんね。和泉君から℡があって、莉彩の新しいメルアドどうしても教えてくれって頼まれちゃって、断り切れなかった。ねえ、本当にもう二人は終わっちゃったの? 私がこんなこと言うのは余計なお節介だと思うけれど、やっぱり二人には幸せになって欲しいもの。莉彩、もう一度だけ、和泉君と二人でじっくり話し合ってみたら?〟
去年の六月末に会社員の四つ上の男性と結婚した泰恵は生後五ヵ月の男の子のママである。結婚式を挙げた時、ウェディングドレス姿の泰恵のお腹はほんの少し膨らみかけていた。
〝できちゃった結婚〟で慌ただしく式を済ませたその半年後、泰恵は3,400gもある元気すぎるくらいの赤ン坊を生んだのだ。眼許が泰恵の夫によく似て、くりくりとした丸い瞳の子リス(?)を彷彿とさせる可愛らしい子だった。
一度だけ出産祝いを持って遥香と二人で泰恵のマンションを訪ねた時、泰恵は実に幸福そうに輝いて見えた。頼んで赤ン坊を抱かせて貰ったときの愕き―、こんなにも温かくて柔らかくて、少しでも力を込めれば脆くも壊れそうなほど頼りなげで弱々しい生きもの。
それでも、一生懸命、母親のお乳をむしゃぶるようにして呑み、生きようとしている力強さに思わず涙ぐみそうになった。子どもを生んだこともない自分には想像を絶する出産という行為、更に一人の人間をこの世に送り出し、責任もって育ててゆくこと。
生命の儚さと強さ、そして母親という存在の尊さをかいま見たような気がした一瞬だった。
叶うなら、愛する男の子を授かり、この手に抱いてみたい。女であれば、恐らく誰しもが心に抱(いだ)き、思い描く夢だろう。
だが、自分にはそれも許されないのだ―。
莉彩はすぐに泰恵に返信メールを送った。
〝良いのよ、気にしないで。それよりも、純也(じゆんや)ちゃんは元気? もうすっかり大きくなったことでしょうね。今度、抱っこさせて貰うのを楽しみにしてます〟。
慎吾には返信はせず、直接、駅前の花屋に行くことにする。正直にいえば、慎吾にはあまり逢いたくなかった。泰恵は〝二人には幸せになって欲しい〟と言うけれど、今更、慎吾に逢ったからといって、何がどうなるものでもない。
と、再び音楽が鳴り、今度のメールは泰恵だった。〝莉彩、ごめんね。和泉君から℡があって、莉彩の新しいメルアドどうしても教えてくれって頼まれちゃって、断り切れなかった。ねえ、本当にもう二人は終わっちゃったの? 私がこんなこと言うのは余計なお節介だと思うけれど、やっぱり二人には幸せになって欲しいもの。莉彩、もう一度だけ、和泉君と二人でじっくり話し合ってみたら?〟
去年の六月末に会社員の四つ上の男性と結婚した泰恵は生後五ヵ月の男の子のママである。結婚式を挙げた時、ウェディングドレス姿の泰恵のお腹はほんの少し膨らみかけていた。
〝できちゃった結婚〟で慌ただしく式を済ませたその半年後、泰恵は3,400gもある元気すぎるくらいの赤ン坊を生んだのだ。眼許が泰恵の夫によく似て、くりくりとした丸い瞳の子リス(?)を彷彿とさせる可愛らしい子だった。
一度だけ出産祝いを持って遥香と二人で泰恵のマンションを訪ねた時、泰恵は実に幸福そうに輝いて見えた。頼んで赤ン坊を抱かせて貰ったときの愕き―、こんなにも温かくて柔らかくて、少しでも力を込めれば脆くも壊れそうなほど頼りなげで弱々しい生きもの。
それでも、一生懸命、母親のお乳をむしゃぶるようにして呑み、生きようとしている力強さに思わず涙ぐみそうになった。子どもを生んだこともない自分には想像を絶する出産という行為、更に一人の人間をこの世に送り出し、責任もって育ててゆくこと。
生命の儚さと強さ、そして母親という存在の尊さをかいま見たような気がした一瞬だった。
叶うなら、愛する男の子を授かり、この手に抱いてみたい。女であれば、恐らく誰しもが心に抱(いだ)き、思い描く夢だろう。
だが、自分にはそれも許されないのだ―。
莉彩はすぐに泰恵に返信メールを送った。
〝良いのよ、気にしないで。それよりも、純也(じゆんや)ちゃんは元気? もうすっかり大きくなったことでしょうね。今度、抱っこさせて貰うのを楽しみにしてます〟。
慎吾には返信はせず、直接、駅前の花屋に行くことにする。正直にいえば、慎吾にはあまり逢いたくなかった。泰恵は〝二人には幸せになって欲しい〟と言うけれど、今更、慎吾に逢ったからといって、何がどうなるものでもない。
