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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第5章 想い

 実を言うと、慎吾に逢うのはこの十年間で、これが初めてというわけではなかった。四年前、大学を卒業した年に中学時代の同窓会が開かれたのだ。そのメンバーには慎吾も混じっていた。
 当時、慎吾は何度か物言いたげに莉彩に近付いてきたものの、莉彩の方が慎吾を避けるように逃げ回って、結局、会の途中で早々と帰ってしまったという経緯があった。
 今から思えば、あまりにも大人げないふるまいだったと反省はしている。でも、直接顔を合わせても、お互いに気まずい想いをするだけではないのか―という想いは今でも変わらない。
 しかし、慎吾はメールで〝大切な話がある〟と言っている。そこまで言う彼に対して逃げ続けるのは卑怯すぎるように思えてならなかった。
 振り返ってみるに、この十年間、莉彩は慎吾に対して一度としてちゃんと向き合おうとしたことがあったろうか? 十年前に別れを告げた日、実は終わったと思い込んでいたのは莉彩の方だけで、彼にとっては終わっていなかったのかもしれない。
 だとすれば、これ以上、逃げ続けてはならない。真正面から慎吾と向き合い、ちゃんとその想いを、気持ちを受け止めなくては。そのときこそ、二人の十年間に、―あまりにも幼かった恋とも呼べない恋のエピローグを打つことができるのだ。
 また、それが莉彩に彼が向けてくれた真摯な想いに対してのせめてもの礼儀というものだろう。
 莉彩が慎吾の指定した花屋に着いたその時、慎吾は既に来ていた。
 そういえば、デートするときもいつも先に来ているのは和泉君の方だったっけと、莉彩は〝昔〟を懐かしさとほろ苦さの入り混じった気持ちで思い出す。
 でも、たった一度だけ、慎吾がデートに遅れたことがあった。その日に限って慎吾が待ち合わせ場所に現れず、莉彩は待ち合わせの橋のたもとからY駅の方へとさびれた商店街を引き返していった。
 そして、あの事件が起こったのだ。莉彩を奇しき縁(えにし)で結ばれた恋人徳宗とめぐり逢わせることになったあの出来事。
 いけないと、莉彩は緩く首を振る。ともすれば、あの男のことを考え、思い出してしまう自分を叱る。

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