
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第5章 想い
これから慎吾に逢おうというのに、あの男(ひと)のことを考えてどうするというのか。あの男とは所詮、結ばれないさだめだとは判っているけれど、この恋に殉じて生きてゆく覚悟なら、慎吾との訣別もまた、避けては通れないことなのだ。
〝ミルフィーユ〟と半透明の曇りガラスにピンクのスプレーで吹きつけられたドアを押す。どう見ても外見も店の名前も花屋には見えないそこは、カフェとフラワーショップを兼ねた店だ。いつも店の前をよく通りかかることはあっても、実際に中に入るのはこれが初めてである。
花屋のスペースには狭い室内にそれこそ季節の花々が溢れ、香気に思わずむせ返りそうになる。店内に脚を踏み入れた途端、莉彩の視線がある一カ所へと引き寄せられた。薄紫の可憐な小花が身を寄せ合うように群れ固まって咲くその花はまさしくリラの花だ。
四月の今、北海道はリラの花が満開になる。莉彩の通った女子大近くにも〝リラの小道〟と呼ばれる並木道があった。
あの男が見てみたいと言ったリラの花、自分たちを引き合わせてくれるきっかけとなったリラの花を象った簪。
あの不思議なリラの花の簪に導かれ、莉彩は五百六十年の時空を越え、あの男に出逢った。莉彩にとって、リラの花はけして忘れ得ぬ花、忘れ得ぬひとにつながる想い出だ。
この季節、北海道では比較的よく見かける花で、この店にも満開のリラの花がブリキのバケツに山のように溢れんばかりに活けてある。
しばらくの間、莉彩はその場に立ち尽くしていた。
ふいに背後から肩を叩かれ、莉彩は唐突に現実に引き戻される。
「―和泉君」
莉彩の唇から吐息のように慎吾の名が落ちた。促されるままにフラワーショップとは続きになっているカフェに入り、入り口近くのテーブル席に座った。
フラワーショップと同様、カフェのスペースもさして広くはなく、二人がけの丸いテーブルが五つほど置いてあるだけだ。丁度、テーブル席から少し離れた場所、向かいの壁側につるバラが植わっていた。
よくよく眺めてみると、室内全体が温室のようになっているようだ。向かいの壁一面を無数に花をつけた蔓が這っているので、まるで薔薇で飾られたタペストリーを眺めているような気分になる。
〝ミルフィーユ〟と半透明の曇りガラスにピンクのスプレーで吹きつけられたドアを押す。どう見ても外見も店の名前も花屋には見えないそこは、カフェとフラワーショップを兼ねた店だ。いつも店の前をよく通りかかることはあっても、実際に中に入るのはこれが初めてである。
花屋のスペースには狭い室内にそれこそ季節の花々が溢れ、香気に思わずむせ返りそうになる。店内に脚を踏み入れた途端、莉彩の視線がある一カ所へと引き寄せられた。薄紫の可憐な小花が身を寄せ合うように群れ固まって咲くその花はまさしくリラの花だ。
四月の今、北海道はリラの花が満開になる。莉彩の通った女子大近くにも〝リラの小道〟と呼ばれる並木道があった。
あの男が見てみたいと言ったリラの花、自分たちを引き合わせてくれるきっかけとなったリラの花を象った簪。
あの不思議なリラの花の簪に導かれ、莉彩は五百六十年の時空を越え、あの男に出逢った。莉彩にとって、リラの花はけして忘れ得ぬ花、忘れ得ぬひとにつながる想い出だ。
この季節、北海道では比較的よく見かける花で、この店にも満開のリラの花がブリキのバケツに山のように溢れんばかりに活けてある。
しばらくの間、莉彩はその場に立ち尽くしていた。
ふいに背後から肩を叩かれ、莉彩は唐突に現実に引き戻される。
「―和泉君」
莉彩の唇から吐息のように慎吾の名が落ちた。促されるままにフラワーショップとは続きになっているカフェに入り、入り口近くのテーブル席に座った。
フラワーショップと同様、カフェのスペースもさして広くはなく、二人がけの丸いテーブルが五つほど置いてあるだけだ。丁度、テーブル席から少し離れた場所、向かいの壁側につるバラが植わっていた。
よくよく眺めてみると、室内全体が温室のようになっているようだ。向かいの壁一面を無数に花をつけた蔓が這っているので、まるで薔薇で飾られたタペストリーを眺めているような気分になる。
