
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第5章 想い
花びらの部分にアメジストがはめ込まれている繊細で、非常に美しい細工だ。仮に露天商の老人の言葉が真実だったとしたら、現代では値も付けられないほどの価値があるはずなので、父はその逸話は眉唾物だとあまり信じてはいないようだった。
しかし、莉彩は何故かその簪をひとめ見たときから心奪われた。よもや、離れ離れになった恋人同士を再び引き寄せるという不思議な言い伝えのあるその簪が、莉彩を五百五十年前の朝鮮に導くとは想像だにしなかった。
―十年後のリラの花の咲く頃、この橋のたもとで逢おう。
莉彩と徳(ドク)宗(ジヨン)は約束した。
むろん、そんな約束が実現するとは到底思えない。その約束の日がいつなのかすら、莉彩には判らないし、二人の間で交わされたのは、ただそれだけなのだから。
それでも、遠い時の彼方にいるあのひとに逢えないとしても、せめてこの切ない想いの片鱗でも届けることができるならば。
莉彩はそう願って、今日、ここに来た。
そう、莉彩が故郷に戻ってきたのは、約束の場所―Y駅の近くの橋に来るためだったのである。
―殿下(チヨナー)、お約束どおり、私は今日、この橋のたもとに来ました。考えてみれば、今年は殿下とお約束したあのときから丁度十年になるのですね。
莉彩は橋のたもとに立ち、ライラックの花束を抱え、そっと眼を閉じた。この付近は十年前と殆ど何も変わらない。もっとも、この十年で商店街は殆どが店を閉めてしまったようで、休日だというのに、どの店も閉めてしまっていて、中にはもう人すら住んでいない廃屋状態になっているところさえある。
短いようで長く、長かったようで短かったこの十年を莉彩は感慨を込めて思い出していた。
―これが殿下のご覧になりたいとおっしゃっていたリラの花です。
今、この瞬間、あの方は何をなさっているのだろう。きっと国中の民から〝聖(ソン)君(グン)〟と尊崇を受ける名君になられたに違いない。
ああ、お逢いしたい。ただ、ひとめで良いから、あの方にお逢いしたい。
莉彩は無意識の中に、リラの簪に手を伸ばして触れていた。あの方が似合うと言って下さった、この簪。大切な想い出の品。
愛おしむように、まるで恋人の手に触れるかのように、そっと触れる。
しかし、莉彩は何故かその簪をひとめ見たときから心奪われた。よもや、離れ離れになった恋人同士を再び引き寄せるという不思議な言い伝えのあるその簪が、莉彩を五百五十年前の朝鮮に導くとは想像だにしなかった。
―十年後のリラの花の咲く頃、この橋のたもとで逢おう。
莉彩と徳(ドク)宗(ジヨン)は約束した。
むろん、そんな約束が実現するとは到底思えない。その約束の日がいつなのかすら、莉彩には判らないし、二人の間で交わされたのは、ただそれだけなのだから。
それでも、遠い時の彼方にいるあのひとに逢えないとしても、せめてこの切ない想いの片鱗でも届けることができるならば。
莉彩はそう願って、今日、ここに来た。
そう、莉彩が故郷に戻ってきたのは、約束の場所―Y駅の近くの橋に来るためだったのである。
―殿下(チヨナー)、お約束どおり、私は今日、この橋のたもとに来ました。考えてみれば、今年は殿下とお約束したあのときから丁度十年になるのですね。
莉彩は橋のたもとに立ち、ライラックの花束を抱え、そっと眼を閉じた。この付近は十年前と殆ど何も変わらない。もっとも、この十年で商店街は殆どが店を閉めてしまったようで、休日だというのに、どの店も閉めてしまっていて、中にはもう人すら住んでいない廃屋状態になっているところさえある。
短いようで長く、長かったようで短かったこの十年を莉彩は感慨を込めて思い出していた。
―これが殿下のご覧になりたいとおっしゃっていたリラの花です。
今、この瞬間、あの方は何をなさっているのだろう。きっと国中の民から〝聖(ソン)君(グン)〟と尊崇を受ける名君になられたに違いない。
ああ、お逢いしたい。ただ、ひとめで良いから、あの方にお逢いしたい。
莉彩は無意識の中に、リラの簪に手を伸ばして触れていた。あの方が似合うと言って下さった、この簪。大切な想い出の品。
愛おしむように、まるで恋人の手に触れるかのように、そっと触れる。
