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革靴を履いたシンデレラ

第2章 舞踏会の心得



「………それに、まあ」

シンデレラが横目でチラリと振り返ると、アンリの隣には今にも料理に飛び付きなルナがいる。


「いーい? 貴女もねえ、今晩はお料理に手を付けるのは絶対ダメ。 いつかみたいに大皿を抱えて、恥をかくのは私やシンデレラなんだから! ほらほら、殿方とお喋りして来なさいな!」

「わ、分かったわよう」

(姉様も言ったらきかないから……どうしようかしら。 もうお腹が空いて空いて、喉から胃が出てきそうだわ)

歩き出したものの、ルナは困ったものねえと頬に手を当て

「そうだわ。 あっ、ちょっとそこなお方!」

思い付いたように若い給仕係に声をかけた。

シンデレラが傍にいると霞んでしまうとはいえ、姉妹もまた、人目を引く見目の良さである。
チラチラ遠巻きにルナを眺めている男性陣に紛れ、呼ばれた給仕係がポッと顔を赤らめ彼女に応える。

「何でしょう、ミス……?」

「ねえ、あちらの人目につかない所でお喋りしましょう」

「えっ…いえ、ですが私は勤務中」

今から大皿に取り分けるために彼が運んでいるもの。
ルナの目は熱っぽく彼の手元に注がれていた。

「少しだけ。 ねっ? その『お鍋』ごと」


アンリは離れていくルナたちを不思議そうに見ていた。

「まあ、あの子が男性にあんな積極的なのも珍しい」

(従業員とはいえ、こんな所で働く人なら出自もしっかりしてそうだし……?)


そんな彼女らを一瞥し、くくと小さく笑いを漏らしながらシンデレラが歩を進める。

「確かに殿方が相手だし、皿に齧り付いてるわけでもないな」

彼は単純に自分の家族を愛しているのだった。



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