
革靴を履いたシンデレラ
第2章 舞踏会の心得
自分を取り囲む女性たちとの会話に耳を傾けながら、一方でシンデレラは壁際に咲くささやかな花に視線を向ける。
「そうですね」「いいえ私は、お酒が飲めませんの」と、声のする方向にいちいち顔を向けては微笑む。
女性を数人の男が囲んでいた。
その女性はおそらくシンデレラと同じぐらいか、せいぜい一つ二つ年上とみた。
可憐な容姿をしており、ぬけような翡翠色の瞳がせわしなく動く。
女性は瞳と同じ色をしている清楚なドレスを身に纏っていた。
胸元が大きく開いたドレスを着た周りの女性からは、幾分か浮いているように見える。
しかしドレスは彼女の華奢な体を包み込み、彼女の透明な魅力を際立たせている。
シンデレラは何か彼女に惹かれるものを感じた。
よく見ると、その女性の周りにいるのは派手な外見の若者か、好色そうな中年のようだ。
たまに好青年らしき男が控えめに近寄ってきても彼女はそちらの方へ見向きもしない。
(触れなば落ちんとは、きっとあのような女性をさすのだろう)
「シンデレラ様、どうかされまして?」
「……いや」
彼は注意深く彼女の方向に耳をそばだてていた。
周りの男が「ごく軽い葡萄酒です」と彼女に向かってグラスを差し出す。
そのあとに彼女がグラスを手に取り損ねて床に落とす光景が、シンデレラの視界に映り込む。
「あら! 私、ごめんなさい」
謝罪をした女性が咄嗟にしゃがもうとした。
シンデレラが早足で女性に近付いていく。
近付いてきた彼の足音に、しゃがんでいた彼女が驚いたのか、肩が怯えたように揺れた。
そんな彼女を見つめ、シンデレラは距離をとって跪いた。
「どうぞ、私と一曲────とお誘いしたいところですが、まだ音楽を楽しめる時間ではありません。また、私は人混みに多少疲れてしまいました。 もしよろしければ、あちらで涼みながらお話ししませんか?」
と、丁寧に女性に話しかけた。
シンデレラの完璧な所作に口を挟む者は誰もいない。
「え、ええ………分かりましたわ」
伸ばされた手を女性がぎこちなく取って、二人はバルコニーの開放された扉から外に出た。
