
革靴を履いたシンデレラ
第2章 舞踏会の心得
薄明かりが漏れる広いバルコニーには、室内の喧騒を離れた場所にいるような、どこか秘密めいた雰囲気が漂っている。
開放的な空間が心地良い風を運んできて、その場にいる人々を静かに包み込んでいた。
「良いのですか」
連れられた女性は控えめな様子でシンデレラに尋ねた。
「何がです?」
「あの女性たちが………今にも刺しそうな勢いでこちらを見ています。 貴方のお相手の方々ではありませんの?」
女性がちら、と声のする室内を振り返る。
それを追ってシンデレラが彼女の様子を観察する。
結いあげた髪のおくれ毛やドレスの裾が夜風にひるがえっていた。
「ああ……俺…私はああいう嫉妬のたぐいが少々苦手でして。 相手の性質を見分けるのにちょうどいい。 ところで貴女のお名前を聞いても?」
簡単な自己紹介のあとにシンデレラが問うと彼女はリーシャと申します、と答えた。
「………貴方は今まで人を好きになったことがないのかしら。 それとも、自分は棚にあげて、お相手の嫉妬を厭う身勝手な殿方の、どちらのタイプかしら?」
柵に手を付いて夜の景色を眺めるシンデレラの後ろで、リーシャが口を開いた。
「さあ? そんなものは自分でコントロールすべきかな。 少なくとも一人前の男ならば、悪感情なんて表に出すものじゃない」
シンデレラは押し黙ったリーシャに顔を向けた。
「………なにか?」
「失礼ながら貴方はあまりそんな風には見えませんから。 口では何とでも言えますし」
「品性の問題です。 貴女こそ、見えないわりに俺の何を見ていると?」
話しかける前から、リーシャは不自然なほど滅多に人と目を合わそうとしなかったのにシンデレラは気付いていた。
「お気付きでしたか」
「貴女は音や気配にやけに過敏ですし」
「それだけで分かるものです? 今まであまり人には知られずにいたものですから」
