
革靴を履いたシンデレラ
第3章 階下の秘め事*
単に火遊びに慣れていないだけにしては、彼女の動作がつたな過ぎる。 と、途中から感じていた。
「こういう時に訊くのは無粋かも知れないが」
「だからって、み、妙な責任なんて……感じる必要ないわ」
「いや、そういうことは割とどうでもいい。 男と女が向き合ってるだけだ。 ただ俺は何というか」
肘をついて上体を起こし、こめかみに指を沿えて言葉を探す。
「慣れてる振りなぞしなくていいと言いたかった。 互いに裸じゃないと、こっちも集中出来ない。 欲のためだけなら、マスターベーションで事足りるのだし」
しばらくの間、リーシャは目をしばたたかせて彼を見ていた。
彼の身なりからして、自分よりも身分は低いだろうし、おそらくまだ二十歳も超えていない。
そんな男性に、こんな時に冷静に諭されるとは思っていなかったからだ。
「……変な人」
「気が変わったら押し退けてくれていい」
「今までにそういう女性はいて?」
「まあ……いないな」
「じゃあ私は途中で嫌だと言うわ」
「そしたら俺はキスをしてキミの口を塞ぐ」
クスクスとリーシャが笑う。
空気が心地好く揺れるような、彼女の笑い方を好きだと思う。 はて、心の中で首を捻る。
最中の相手に関して、性的なこと以外を今まで考えたことが彼はなかったからだ。
そしてもう一つ言うならば。
彼女の家柄なら他にいくらでも安全な男はいるはずだ。
(なぜ得体の知れない俺なのだろう?)
自分の持つ魅力とは別のところで、彼は違和感を感じた。
とはいえ、彼女は望んでいるし、自分は言うまでもない。
せっかく温まったベッドから余分なものを取り除くため、シンデレラは再び彼女に重なった。
笑い声は含みを持たせた吐息に変換され、先ほどよりもリーシャの体から力が抜けていくのが分かった。
細くしなやかな白い肌。
薄い翡翠色の瞳。
ああ、彼女は猫に似ている。 ふと彼が思い立つ。
するとシンデレラの愛撫は彼女を驚かせないよう、労りのあるものに変化する。
