
革靴を履いたシンデレラ
第3章 階下の秘め事*
(おなかが……頭がぼうっとする)
そんなリーシャに
「………すごく気持ちよさそうだね」
耳元で囁く、ゆったりとした甘い声。
鼓膜まで愛撫されているようなその響きにリーシャの胸が高鳴る。
口から布を外した彼が、湿った彼女の唇に口付けを落とす。
(ああ、私、恋をしたわ)
そう思った瞬間に、彼女の目の端から新しい涙が盛り上がって零れた。
口を塞がれていて良かったとリーシャは思った。
………それとも良くなかったのかもしれない。
元のようにしんとした室内に、上階からの微かな笑い声が響いてきた。
薄曇りの月明かりからもれる蒼い陰影が室内を寒々しく彩り、乱れて湿ったベッドだけが狂おしい情事の跡を生々しく残していた。
(私の肌に濃く残る、咬み痕…かしら?)
ひりひりする余韻を冷ますためにシンデレラと距離を置いて、リーシャは今の思いを率直に彼に伝えた。
「貴方を選んで良かった」
薄暗い中にシンデレラの肩が見え、そこに細く走るいくつもの引っ掻き傷は、きっと自分が付けたもの。
(こんな綺麗な身体に、申し訳ないことを)
無言で髪を掻き上げたシンデレラに恥じ入った気持ちになり、視線を逸らしていたリーシャのぼやけた視界。
そこへ男性らしく盛り上がる肩から胸の曲線が目に入る────直後、至近距離に彼の美術品のように整った顔が割り込んできた。
「俺も最高だったよ。 何なら朝まで抱き合いたいほどに」
ふ、と何かが解けたみたいに軽く微笑み、ベッドの隣で寝転んでいる彼の指先が、ゆるりとリーシャの髪の束を小さく梳いた。
「………っ」
今さらのようにリーシャの顔が熱くなる。
