
革靴を履いたシンデレラ
第3章 階下の秘め事*
それを誤魔化したくて、おどけて下からシンデレラの顔を覗き込む。
「そんなことを誰にでも言うの?」
「もちろん言わない」
彼が真面目な表情で言うので、クスクス笑っていたリーシャの声が先細りになり、
「また会える?」
何の思惑もなさげなシンデレラの問いに笑いをひそめた。
「……ごめんなさい」
「理由は?」
「もう相手がいるから」
間を置かずにリーシャは言った。
シンデレラは動かずにただ、黙って立ち上がり衣服を整える彼女を見ていた。
彼に向かってかがんだリーシャはバルコニーにいた時と同様に、囁くように微笑んだ。
「あらためて……素敵な夜をありがとう。 先に行きます」
そうして外に通じる引き戸が静かに閉められ、シンデレラはつい、日ごろ口にしたことのない悪態をついた。
(あんなによがっていたのに? 何度も………)
理解が出来なかった。
ほんの半刻前までは、自分が完璧にイニシアチブをとっていたはずだ。
ただの男と女として愛を交わしたはずだった。
よく分からない何かが自分たちの邪魔をした。
(相手ってなんだ? 向こうから誘っておいて)
未だかつて女性に断られたことがなく、しかも今回はかなり気に入りかけた相手だけあって、シンデレラはことのほかに傷付いた。
