
革靴を履いたシンデレラ
第4章 シンデレラの落とし物
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近ごろは寒暖の差がことのほか激しく、それでも日中は爽やかな日差しに恵まれている。
アンリは洗い物から手を放し、昼空に浮かぶ白い雲を見上げた。
「ふう、急遽リーシャ嬢の婚姻が早まるなんて………残念だわ」
アンリがポツリと呟く。
良い天気だったので、姉妹は洗濯をするために家の外に出ていた。
ルナはそれに無言で頷いた。
近頃のシンデレラの様子がおかしいのに、二人はとっくに気付いていた。
その理由も彼女らは共有していた。
ルナの────彼女の部屋には、リーシャから渡されたシンデレラの『落とし物』がある。
小さな懐中時計はシンデレラの父親の形見のひとつだった。
純銀製の時計は決して安物ではなかったので、これをリーシャの元に置いて帰れば、彼女は見過ごさないかもしれないと、あの夜、シンデレラは見越したのだろう。
この国はさほど豊かではない。
リーシャが嫁ぎに向かう先は、爵位は低くとも、事業が成功しており裕福な家であることが分かった。
リーシャが彼らの家に訪ねてきたのは、舞踏会から約二週間後のある日のことだった。
ルナはその時昼食の片付けを終え、お茶を淹れるためのポットをストーブにかけていた。
街まで買い物に出掛けたアンリとシンデレラを待つ留守番の間、熱で揺らめく湯気をぼんやりと眺めていた。
シンデレラとは、元々が平和主義者で穏やかに(上から目線で)人と接し……なにしろ「来るもの拒まず去るもの追わず」が彼のやり方である。
(あんな弟を見るなんて初めてじゃないかしら)
考えごとに耽っている中、外からトントン、というドアを叩く音が聞こえた。
業者に食材を注文していたことを思い出し、戸口に向かう。
「はあい、お願いしていたお野菜────…」
扉を開けると、そこには数人の男性たちが横に並んでいた。
黒塗りの立派な馬車が彼らの背後にある。
屋根のない背の低いタイプの馬車が多い中、馬が四頭も繋がれていた。
先に馬車から降りた年かさの女性に手を取られ、長いベールで顔を隠した若い女性が地面に足をつける。
ルナは舞踏会の際、弟の動向と周りの噂で知っていた。
「あ、リーシャ…様………?」
