
革靴を履いたシンデレラ
第1章 シンデレラの優雅な一家
(全くもう。 たしかに、まあ? 少しは彼女たちの気持ちも分からなくもない……けれど。 どうしたものかしらねえ)
深ーいため息をついたアンリがキッチンへと向かう。
シンデレラを浴場の前で待っていたのか。 彼女の後からニャーニャーと何匹かの猫がついてきた。
今年18歳になるシンデレラは稀にみる美形であった。
彼は男性であるにもかかわらず、白く滑らかな肌を持ち、少しくすんだ金色の髪を伸ばすに任せていた。
目鼻立ちは完璧な配列で、その美しさは老若男女問わず言葉を失わせるほど。
桜色のあでやかな唇は早朝に咲くバラの花びらを思わせる。
彼は女性的な美点を備えたが、それらが一つに集まった造形は、不思議とどんな男よりも魅力的に感じられた。
その顔が長身でスマートに引き締まった体の上に乗っていることが、さらに異性としての魅力を引き立てていた。
アンリがキッチンに足を踏み入れる。
台所のテーブルの上には山ほどの芋が入ったカゴが置かれていた。
「あら、姉様。 じきに昼食の支度をしなければならないわ。 今回はじゃがいもをたくさんいただいたの」
アンリの妹が料理の下ごしらえに精を出している。
彼女・ルナはシンデレラよりも二つ歳上の義姉だ。
(手伝うついでに愚痴でもきいてもらおうかしら)
と、アンリもダイニングの椅子に深く腰を下ろした。
「ねえ聞いてよ。 シンデレラったら、今朝は朝っぱらから浴室で女遊びよ。 あの子が買い物に行くといっつも、余分な食材や女性や猫を持ち帰ってくるから、困りものよねえ」
『あねうえさま、あねうえさま』と小走りで彼女の後を追ってきていた彼の幼少時代を頭に浮かべ
「ああ、子供の頃は天使のように無垢な子だったのに」
姉はため息混じりに言った。
