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革靴を履いたシンデレラ

第1章 シンデレラの優雅な一家



「ふふっ。 いいのではなくって? シンデレラは捨て猫だって放っておけない優しい子だもの。 病気に伏せっているお母様のために、ほらっ! これを取り寄せてくれたのよ」

妹のルナが木桶の中に手をつっこみ

「それは単なる猫好き」

そこからジタバタ激しく暴れる大きな物体を掲げた。

「ひいっ!? な、なんなの、そのグロテスクな生き物」

それが灰褐色の甲羅からにゅっと長い首を伸ばし無言でアンリを睨みつけている………ようにみえる。

「スッポンというものよ。 これの生き血や肝は、大層滋養がつくらしいわ。 あの背の低い方の女性は、ちょうど薬屋の娘さんだとかで、シンデレラと店の軒下で目が合ったのですって」

まな板の上でその甲羅をしっかりと押さえ、ルナが慣れた手つきで包丁をタアン!と振り下ろした。

その後、血まみれの甲羅をベリベリとはがす光景を目の当たりにしながら、アンリは一家の食卓を支えるために奮闘する妹の逞しさに舌を巻く。

「………軒下で目が合った、ねえ」

「それでこんな高級食材が手に入るなら、猪を探しに山にこもる手間も省けるわ」

ルナは薄茶色の柔らかそうな巻き髪を結い上げていた。
しかし母親譲りの儚げで優美な容姿を持つにもかかわらず、この妹は「ちょっと狩りに行ってくるわね」と言って、鹿や猪を担ぎ帰るほどの猛者でもある。

(薬屋の娘なら、お母様にもう少し都合のいい丸薬などが欲しいものねえ)

金勘定をはじめとし、家の采配を司るアンリが考えをめぐらす。


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