
革靴を履いたシンデレラ
第4章 シンデレラの落とし物
『目が見えなくなるこんな体で、身分違いの恋を貫く……そう出来るほど、私は愚かではありません。 私は私の家族のために嫁ぎます。 きっとそれが一番良いのです。 ただその前にせめて、私がはじめて自分自身で選んだ方と……ひと時を共にしたかったのです』
リーシャが別れ際、ルナに向けて言ったことだ。
彼女が放つ儚げな印象とは裏腹に、意志のこもった口調で。
けれどももしも。
もしも、彼女を無理やりでも引き留めてシンデレラと話を交わせていたのなら。
────結局、彼女と入れ違いになって、相変わらず塞いだ様子で家に帰ってきた弟を思い出すたびに、ルナは思うのだ。
いつかほとぼりが覚めたら。
シンデレラが大切にしていたあの時計を彼に返そう。 ルナはやるせない気持ちになりながらも心の中でそう決めていた。
「小義姉さん」
うわの空でいたルナがはっと我に返った。
「あら? どうしたの、シンデレラ」
最近のシンデレラは以前よりも覇気のなさはましになったようだが、外出しても、女性を連れて帰るほどには復活していないらしい。
「久しぶりに熊でも獲りにいかないか」
(クマデモトリニイカナイカ………?)
アンナが怪訝な顔をし、尋ねられたルナは頬に指を沿わせて考え込む。
「んん、ンー? まあ、時節的にちょうどいいかもね? 子育ての時期だから、メスはちょっと気が立ってるかもだけど。 姉さんいいかしら。 数日程家を空けても」
妹弟が、アンリの方に顔を向けた。
普段ならば『はあっ!? 危険だから止めなさい』と切って捨てるところだ。
だが内心シンデレラを大いに心配していたアンリは、そこまで気が回らなかった。
弟が最近かつてない穏やかな表情をして、おそらく気分転換をしようとした『クマデモトリニイカナイカ』。
それはアンリの頭の中で「街に買い物でもしに行かないか」などという普通の言葉に変換された。
それで、彼女はつい真面目に答えた。
「く、熊だと毛皮は高く売れるし……? 最近現金が手元になくて困っていたから、構わないわよ」
二人が準備をしている間に、アンリは鞄がパンパンになるほどのお弁当を大急ぎで拵え、玄関先で二人に手を振って見送る。
「気を付けてね! シンデレラ、顔にだけは怪我はしないように!!」
これでも何だかんだいって弟が可愛くて仕方がないのである。
