
革靴を履いたシンデレラ
第5章 魔女のタマブクロモドキ
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シンデレラの父親が死んだのは、彼が七歳の時だった。
彼は葬儀の時にさえ泣きもせず、ずっと憔悴して病床に伏せる義母の傍についていた。
身の回りの荷物をリュックに背負ったシンデレラが、みなが寝静まった頃を見計らい、家を出たある夜。
「お兄ちゃん、どこへいくの」
嫌な奴に見付かった、と彼は思った。
五歳のクレアは、当時どこに行くにも犬のようにシンデレラの後をついてきた。
「ええと、なんだ。 自分探しの旅に?」
「さがさなくってもお兄ちゃんはここにいるわ?」
子供のかん高い声に、シンデレラは慌ててクレアの口を塞ぐ。
「クレア……頼むよ。 この家にとって俺は負担なんだ。 どこかで住み込みで雇ってもらって、父さんの借金を返さないと」
「むぐぐ。 ななさいの子どもがかせぐお金なんて、にそくさんもんよ」
「ずいぶん難しい言葉を知ってるな五歳児」
「それに、おばちゃんもお姉ちゃんもお姉ちゃんも、お兄ちゃんのことがすきよ」
「ああ、良くしてもらってる。 だから俺は」
「クレアもお兄ちゃんがすきよ。 やさしいお兄ちゃんがすきよ」
クレアはにっこりと笑った。
「うん。 俺も好きだ。 だから俺は、ここの家族や村の誰にも迷惑をかけたくないんだ。 わかるな?」
「ちっともわかんないわ」
クレアはじっとシンデレラの言葉に耳を傾けていたが、やがてプイと顔を横に向けた。
「お兄ちゃん、お父さんが死んだのにかなしくないの? もうあえないのよ」
「いやそんな余裕は」
「私、お父さんが死んだらいやだわ」
俯いて、プルプル震え出すクレアにシンデレラはギョッとした。
