テキストサイズ

革靴を履いたシンデレラ

第5章 魔女のタマブクロモドキ


****
シンデレラの父親が死んだのは、彼が七歳の時だった。
彼は葬儀の時にさえ泣きもせず、ずっと憔悴して病床に伏せる義母の傍についていた。

身の回りの荷物をリュックに背負ったシンデレラが、みなが寝静まった頃を見計らい、家を出たある夜。

「お兄ちゃん、どこへいくの」

嫌な奴に見付かった、と彼は思った。
五歳のクレアは、当時どこに行くにも犬のようにシンデレラの後をついてきた。

「ええと、なんだ。 自分探しの旅に?」

「さがさなくってもお兄ちゃんはここにいるわ?」

子供のかん高い声に、シンデレラは慌ててクレアの口を塞ぐ。

「クレア……頼むよ。 この家にとって俺は負担なんだ。 どこかで住み込みで雇ってもらって、父さんの借金を返さないと」

「むぐぐ。 ななさいの子どもがかせぐお金なんて、にそくさんもんよ」

「ずいぶん難しい言葉を知ってるな五歳児」

「それに、おばちゃんもお姉ちゃんもお姉ちゃんも、お兄ちゃんのことがすきよ」

「ああ、良くしてもらってる。 だから俺は」

「クレアもお兄ちゃんがすきよ。 やさしいお兄ちゃんがすきよ」

クレアはにっこりと笑った。

「うん。 俺も好きだ。 だから俺は、ここの家族や村の誰にも迷惑をかけたくないんだ。 わかるな?」

「ちっともわかんないわ」

クレアはじっとシンデレラの言葉に耳を傾けていたが、やがてプイと顔を横に向けた。

「お兄ちゃん、お父さんが死んだのにかなしくないの? もうあえないのよ」

「いやそんな余裕は」

「私、お父さんが死んだらいやだわ」

俯いて、プルプル震え出すクレアにシンデレラはギョッとした。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ