
革靴を履いたシンデレラ
第6章 もう一人の魔女*
視界からルナが消え、取り残された二人が顔を見合わせる。
正直、ルナの考えなど互いにバレバレだった。
「……何で道端に鹿がいるんだ? あからさまな」
「可愛い人。 何だか期待を裏切るようで悪いけど」
「だろうな。 貴女は俺の手には余る」
イザベラとはごく軽い気持ちで関係を持ち、彼女は強烈な印象をシンデレラに残しながらも深入りしなかった─────正しくは、出来なかった。
「誰に対してもね。 私は結婚する気も恋人を作る気もないって知ってるでしょ? でも、今晩は付き合おうかな」
「今、そんな気は無い」
「女で付いた傷なら女で癒すもの。 私は適役だと思わない?」
何の思惑もなさげに笑ってみせる。
「……本当に、敵わない」
こうやって、男の心の切れっ端を悪気なく盗んでいく、イザベラはやはり正真正銘の魔女なのだ。
イザベラの住まいに来たのは初めてではない。
(以前もたしか、あの女の家の後だった)
シンデレラはぼんやりと思い出していた。
装飾が多く、派手な色のダーマの部屋。
一方、イザベラの所は物があまり置かれていない。
強いていえば、ベランダに所狭しと並んでいる鉢植えだが、彼女曰く「店で使うもの」だと言う。
いかにも一人住まいにぴったりの小さな丸いテーブル。
提供された温かい清涼感のある飲み物を、シンデレラはゆっくりと飲んでいた。
イザベラは早口になることがなく、いつも落ち着いて話す。
大きな抑揚もない。
聞いていてちっとも不快ではないし、外で話した以来、シンデレラの内情に深入りしてくる様子もなかった。
異性だという以前に、居心地のいい人間だと思う。
そんな油断をさせておき、うっかりすると透明に見まごう魅力的な瞳や白く豊かな胸元の奥、カップを丁寧に扱う指の動きに目を奪われる。
