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革靴を履いたシンデレラ

第6章 もう一人の魔女*



「今なら言ってもいいかな。 私ね、子供が出来ないんだ。 体の問題で」

「それが結婚や恋人を作らない理由?」

イザベラが頷いた。

「そんなの気にしない相手など、いくらでもいるだろう。 運で恵まれない夫婦なんかも……男が愛するのは未来の子供ではなくイザベラ、君なんだから」

「『私』が嫌なの。 誰かを愛せば愛するほど、きっと私はその人の子供が欲しくなるって分かってるから。 それが辛いと思うから」

沈黙の後に、シンデレラが俯いて目を閉じた。

「……済まない」

(ああ、まただ)

相手のことを思い遣りたいのに、なぜ無神経なことばかり言ってしまうんだろう? そんな後悔をする。

「ごめんなさい。 貴方にはきちんと話したかった」

片方の自分の腕を抱きしめていたイザベラは小さくみえた。
それでも、と彼は口を開く。

「イザベラは後悔しないのか? この人と思う人間が出来ても?」

「私は恋に夢中になるほど若くないし、世間的に希望を失うほど歳はいってない。 あとほんの数年……で、もしも縁があればね」

「そうか」

シンデレラはホッとした。

「君が幸せになればいいな」

同時に、そうなればきっと、自分はイザベラの幸運な相手に嫉妬をするだろう。
彼女は若い自分を選ばない。

『相応の相手を探して普通の家庭を作んなさい』

そう言うに決まってる。

「じゃ、君が他に取られないうちに楽しもう」

自然に彼女の手を握ると、イザベラがきょとんとして彼を見た。

「今、そういう雰囲気だった?」

「どうかな。 正直、最初は怖かったけど」

「怖い? なぜ?」

彼につられてイザベラが立ち上がる。
互いの腰に手を回す。

「……最後に寝た女性のことをあまりにも覚えてなくって。 俺はイザベラのことをそんな風に扱いたくないから、かな」

「私、貴方のこと、昔よりも好きみたい」

そう言って微笑む彼女が綺麗だとシンデレラは思う。
きっと『色んな人の手が掛かって』いるのだろう。


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