テキストサイズ

獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話

第3章 未婚獣人たちの慰みもの*


「それは違います。 セイゲル様がご主人を求めるようになったのは、かれこれ五年は前のことです。 こっそり渡したご主人の写真を眺めては、早く会いたい、番を持てる資格が欲しいと、あの方は異例の出世をなされたのですよ」

「シン、ストップ」

「は?」

聞こえない振りをして前を向いていたが私の心臓はドキドキしていた。

「見張りの人に気付かれるから、もう話さないで」

「………?」

だって聞きたくない。

五年前からずっと?
他の誰でもなく私のことを、彼が?

「わ、私は帰るん……だから!」

拳を握って小さく呟く。
さっきの電話の彼はあんなに冷たかったのに?
そんなの信じられない。
門番からの死角を縫い、周囲の道に沿って姿勢を低くして進む。
不思議そうな顔で私の後を付いてきたシンが目的の場所で足を止めた。

「こ、この穴は……?」

壁の穴をフンフン嗅いでは頭だけをそおっと向こうに出し、それから驚いた顔で私を見上げる。

「これは違法ですよ。 ご主人、戻りましょう」

「嫌だよ。 私は帰るの」

シンは少しの間考えていたが、再び真剣な表情で私を見つめた。

「ご主人、あの。 それに……それに、獣人とはとても情が深いのです。 私は早くに家族を亡くしたご主人ならば、幸せな家庭をセイゲル様と」

「帰るの。 もう彼のことは話さないで」

それ以上は聞きたくなくって首を横に振る。
私だって、セイゲルさんと同じぐらいの年月を頑張ってきたんだもの。

でも、私は本当は何のためにこの道を選んだんだろう────?

今さらふと疑問がよぎったが、シンの諦めたように小さな声で我に返った。

「……分かりました。 私は普通に門から外に出ます。 その方が彼らの気も逸らせるでしょう」

「あ、あり…がとう」

元来た道を戻り、そこから真っ直ぐ門に向かうつもりとみた。
どことなくトボトボ歩くシンの後ろ姿を見送りながら、胸がざわざわするのを感じていた。

私はその場で行ったり来たりを繰り返していた。

もう引き返せない……よね?

ストーリーメニュー

TOPTOPへ