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獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話

第5章 推されなれないものだから


昨日の出来事をぼんやり思い出している私を見守っていたシンが補足する。

「ご主人。 誤解のないように言っておきますがね、私は反対したのですよ。 ご主人と離れて私が外の門に向かったでしょう? そこで立っていた門番の一人が、まさかセイゲル様だとは。 『あの壁の穴は俺が空けておいたものだ、少しでも琴乃の本心を知りたい』などと私に耳打ちして、何も知らぬもう一人の獣人とご主人の所へ向かったのです」

………そうだったのか。
私は本格的にセイゲルさんに試されていたという訳だ。

人を試すという行為には種類があると思う。
試すことが他人をコントロールしたり、遊びになってる人は、それを何度も繰り返すのだろう。
私が以前付き合った人がそうだった。
けれどセイゲルさんがそのタイプだとは思えない。
だからそんなことを聞かされても、ちっとも怒りが湧かなかった。
その代わりに、肌の表面の傷とそれから彼に責められた内側に、帯びていく熱を感じた。

万一私に選ぶ権利があるとして。
脳内に現れた天秤。
二つのお皿に獣人世界と人間世界を乗っけてみた。
左には、凛々しいセイゲルさんともれなくオプションでついてくるメロルくんたちや、ひょっとして将来の自分の可愛い獣人の子供たち。
右には、高校時代の友人知人やアルバイト仲間、ちなみに元彼の記憶は消したい。
スコーン! と天秤は勢いよく左側に傾いた。
唯一の心残りは両親との思い出だが、もう故人だし。
左にはいつでもお喋り出来るシンも乗っているし。

だって初めてだもの。
昨日街であんなに獣人たちを目にしたけれど、セイゲルさんはその中でも、かなりのイケ獣人だと思う。

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