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獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話

第5章 推されなれないものだから

低くて艶のある声。
孤高を感じさせる瞳は金色に鋭く輝き、すっと伸びた品のいい鼻の形。
厚い筋肉に覆われた被毛は、力強く野性的だけれども、お腹側は無防備に柔らかい毛触りで、ついつい手を伸ばしたくなる。
そして小顔で引き締まった逆三角形の体格は他の獣人にもあまりいなかった。

愛されてたのがあんな人だなんて、私は知らなかったもの。
怪我なんて気にならない。 あんなにも感情が揺さぶられたことなんて今までなかった。
かあっと熱くなる頬を手のひらで挟み、両足をバタバタさせる私に、シンは不気味なものでも見るような視線を寄越した。

ああ、壁の向こうの彼の表情を見れなかったのが悔しい。
顔を覆っている指の隙間からちらっ、とシンを窺った。

「ねね、シン。 セイゲルさんはここに私を抱いて運んでくれたよね?」

「当たり前でしょう、私には無理ですから。 セイゲル様は片手で軽々でしたけど」

た、逞しい。
そんなのヒト科ではとても無理。 素敵すぎる。
高まる心音を押し隠しさらに訊いてみる。

「……っそ、その時、セイゲルさんは何か言ってた?」

「何ですかご主人、鼻息を荒くして……ええと。 『理解のある』」

「それはいいから、他に」

「ええ、『もう誰にも見せたくない』とかなんだとか? 道中は上着でご主人を隠して。 あの方もご主人よりはマシですがちょっとツン」

「っ!!!!」

きゃああああああっ!!

声にならない心中を表わせなくとも堪えきれない私はベッドの上を転がり悶える。
シンが後ずさる気配がした。

「ご主人、ご主人。 そんなに毛虫みたいにニョロニョロ動くと包帯が取れてしまいます」

そう言われても止まらない。

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