獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第5章 推されなれないものだから
溺愛、これはまさに溺愛なの!!!???
自分にこんな出来事が降ってくるとは思ってなかった。
「し、シン」
「はい?」
息苦しい胸を手のひらで押さえ、確信に似た気持ちをシンに伝える。
「わ、私、セイゲルさんに物凄く恋をしてると思うの!」
「……だから最初、言ったでしょうに」
呆れた口調でため息をついたシンが、自分の額の下辺りを前脚でつつく。
「私は初めから、ご主人がそうなると思っていましたよ。 私の頭には過去人間と獣人との、何百ものカップリングデータが詰まってますから」
犬って凄い。
女子力いわんや仲人力。
「……なぜ私に土下座しているのか分かりませんが。 セイゲル様は明け方近くまで、心配そうにご主人を見守っていました。 今朝は早くから勤務に向かいましたが、夕方に戻るまでくれぐれもご主人を安静にさせておくようにと。 それでもちろん、もう外になど」
「シン、私セイゲルさんのために、美味しいご飯を作りたいの。 街へ買い出しに行こう!!」
邪魔とばかりに包帯を外し、ばっと立ち上がった私が痛みを忘れて叫ぶ。
「………学習能力って言葉知ってます?」
それに心から嫌そうな顔を返したシンだった。
◆
シンったら。
あれから無言で寝室を出て行ったと思ったら、彼らに告げ口なんて。
この家のリビングは一階にある。
私から見ればベッドみたいな広さの、ソファセットやローテーブルなどが置いてある開放的な空間。
そこで私はスツールに腰掛けていた。
私の解けた包帯を巻き直しつつ、獣人の二人が両隣でニコニコしている。
「もちろんダメですよ、琴乃様」
「そうそう、買い物はこっちの仕事。 また外出なんかさせてあとで叱られるのは僕たちですから」
言葉に詰まって何も言えない。
こんなことや食事の用意に洗濯、寝室の掃除……つまりこの家の正当なお世話係はこの、メロルくんとシリカくんである。
昨日のように、二人に迷惑をかける訳にはいかない。
私はセイゲルさんの傍にいることに決めたのだから。