獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第6章 甘えたいっ*
「さっきも帰ったなりにお前の顔を見たら、仕事の疲れを忘れた。 仕草も表情も声も、見蕩れるぐらいに可愛いんだ」
「………」
いつの間にか寝室の前に着いたようだ。 私を下ろす前に、セイゲルさんが私のほっぺたをペロリと舐める。
「愛してる。 良い夢を」
「………は、い、おやすみ…なさい」
「おやすみ」
部屋に入りかける私を認めて彼が踵を返した。
しっ、しん、心臓が。
「ふ、ふわ……」
キュンキュン胸が締め付けられる。 ドアに背中をつけて細切れに息を吐く。
それは単なる恋心だけでなく。
言われたことも無い褒め言葉に、くすぐったくなっただけでなく。
心を砕いて、真摯に真っ直ぐ愛情を伝えてくる彼への尊敬。 あるいはそんな人が、自分に連なることに対する、誇らしさといえばいいのか。
普段の彼はどちらかというと、知的な人のようだ。
わりと勇気を出した、私の『頬っぺたにキス』なんて、赤ちゃんレベル。
しかも気圧されっぱなしで、ちっとも反撃できなかった自分にふと気付いて、愕然とした。
「これは困ったわ……」
そう呟いて頬に手を当てるくせに、私の口の端はどうしても上がってしまうのだった。
ベッドの中央を占領しているシンの邪魔をしないよう、端っこに潜り込む。
そして同時に、幼少期以来忘れていた感情が湧き起こってきた。
セイゲルさんに甘えたいな、なんて────……
なぜこの歳でこんなことを思うんだろう?
自分でも疑問に思っているうちに、目蓋が重くなってくる。
「……おやすみなさい、ご主人」
寝入る直前に、起きていた様子のシンの声が聞こえた。