獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第6章 甘えたいっ*
やがて21時きっかりに獣人の二人が立ち上がった。
「ではセイゲル様、琴乃様、シンさん、おやすみなさい!」と礼儀正しく声をあげてリビングを出て行く。
戸口に向かって頷いたセイゲルさんが、私の方に視線を移した。
「どうした琴乃、にやにやして?」
「セイゲルさんは良いお父さんになりそうですね」
「どうかな。 まあ……共にいられるのは幼少期のみとはいえ、子供の人格形成をする大事な時期だからな。 そうなりたいし、もちろん努力する。 だけどその前に」
一人掛けのソファの肘掛けに腕を置いていたセイゲルさん。 私に向かって手を伸ばす。
何かと思い近付くと、ついと手を取られた。
自分の体がくるりと半回転し、ぽすん。 セイゲルさんの膝に乗る。
「俺はお前の良い夫になりたい」
「......」
セイゲルさんのお膝の上。
見た目母数のデカい幼児と大人の絵面だと思う。
けれども私は知った。
小さな者が大きな者に感じる威圧感。
それは相手によって、とてつもない安らぎになることを。
「その前に、良い彼氏とか恋人って定義はないんですか?」
背中に彼の胸が当たり、彼の指が私の髪を梳いている。
幸せ。 幸せだわ。
欠伸をしたシンが立ち上がってリビングを出て行った。
「少なくとも俺にとってはない」
「何でですか? こ、子供が出来る前……本当の結婚前には通る道なのに」
「道もクソも狙った獲物は逃さないから」
うっ!
また負けそうだ。
首を横に向けて頭上を見上げる。
すると切なげな金色の瞳が私を見つめていた。
「お前は自分の誕生日とシンと暮らし始めた日、それからクリスマスに、毎年ケーキを食べると聞いていた。 甘いものが欲しいならいつでもくれてやる。 菓子だろうが言葉だろうが、お前の欲しいものは何でもだ」
そんな目をしてそんなことを言われると。 鼓動が勝手に早鐘を打ち始める。
身動ぎをした私に、逃がさないとばかりにセイゲルさんが抱き寄せてくる。
押し付けられた逞しい胸板に、胸の音はうるさいほど高鳴っていく。
「あ、あ……の…っ…」
心音と沈黙を誤魔化そうとして口を開く。
するとセイゲルさんの指がくいと私の顎を上にあげ、彼の口先が私の唇に触れた。
視界いっぱいの、彼の眼差しに宿る熱に耐えられなくって目を堅く閉じる。