獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第7章 嫌いの影響
「彼女たちの役目とは、結婚の資格を持つ獣人の、性交に関する手ほどきです。 従って一般の目にはさらされない存在なのです。 通常は人間の世界でも、高級娼婦が選ばれます。 彼女たちの定年は35歳となりますが、その後はこちらの世界の一切を、決して口外しないことと引き換えに、一生遊んで暮らせるだけの報酬を得て、人間の元に戻されるのですね」
「手ほどきって……何のために? 私みたいに内緒で連れてこられるの? 無理やりってこと?」
もしもそうだったらひどい話だ。
性や人権だけでなく、人そのものを売り買いするようなものだもの。
つい語気を荒げてしまう。
そんな私に、シンは口調の速度をさらに落とし、落ち着いた声で説明を続ける。
「まず二つ目の質問についてですけど。 何もご主人のパターンだけが全てではありませんよ。 殆どの女性は、安定した生活や待遇に納得してから、こちらに来ます。 こうなったので言いますが。 ご主人がこちらに来る時、最初に何も伝えなかったのも、私があえてそうした方がいいと考えたのです」
「シンが……なぜ?」
「ご主人は苦労していたせいか、早く社会に出て自立したいというのがご自身の優先順位でしたから。 他方で苦労したからこそ、一人の夫の元で一生安穏と暮らしたいという考えの女性も少なくはないんです」
「で、でも私、元々獣人は好きなんだけど。 シンも知ってるよね」
私には最初から獣人に対する悪感情などなかった。
始めて間近で見た彼らへの感想は「わっ、大きい! 凄い!」「格好いい!」などと、感動で殆ど語彙が死んでいたと思う。
「確かに…ご主人ならば口外もせず、徐々にここに馴染んでいくことも出来たかもしれません。 ですが女性が単独で行動しづらいこちらでは、番を守る夫の存在もまた、欠かせないのです。 加えてセイゲル様には、ご主人以外は要らないとの強い要望がありましたからね。 ですから最初に既成事実を作らせていただいたんです」
「個人の自由を奪ってまで? それはいくらシンでも許せないわ」
それに、私以外は要らない?
なんと不届きなセイゲルさんなんだろう。
「……それにしては顔がニヤケてますけど」
「ま、まあ。 それは。 あと一番目については? 理由は何となく察してるけど」
コホンと咳ばらいをした私は顔の熱を冷まそうと横を向いた。