獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第7章 嫌いの影響
「いつまで不貞腐れてるんだ。 最初っからすぐヘソ曲げるよなお前」
PCと私の腕を測るメジャーに目を滑らせる彼がふむふむと頷きながら何かを書き込んでいく。
まるで他人ごとのような態度にまた怒りが湧いてくる。
「セイゲルさんが無神経なこと言うからですよ! 15分とか済ませる何とか」
「目の前に好物の餌ぶら下げられて、はいそうですかって収まるほど雄の生理は簡単じゃない。 許せ。 おい、お前こそ乳首立てたら測れないだろ? 人のこと言えんのかよこれ」
胸先がメジャーに擦れるから無意識にそうなってしまうだけだ。
「だから、そういうっ……!」
怒りをぶつけそうになるも、彼の様子は普段と変わらない。 すると今度は肩透かしを食らったような気分になる。
「……無神経か? 例えば大木とかブスとか臭いとか。 貧乏とか育ちが悪いとかって、陰口言ったりネットに書き込んだり」
私の体がびくっと揺れた。
そんなことまで知ってるの?
自分の顔が熱くなるのを感じた。
少なくともセイゲルさんの耳には入れたくなかった。
……他人が向けた、私への辛辣な評価や悪口なんて。
黙り込んだ私をちらと見たセイゲルさんが、作業の手を止めPCを静かに閉じる。
「お前は思春期の頃、特に同年代の異性によくからかわれていた。 そんな環境で育ったお前は、劣等感や男への不信感や嫌悪感を抱くようになったと聞いてる」
嫌な思い出しかない過去に耳を塞ぎたくなる。
けれどもセイゲルさんは腿につけていた私の手を優しく握った。
「……そしてふと、俺たちに目を向ける。 いつしか俺たちなら自分を受け入れてくれるんじゃないかと夢見るようになる。 だがもしも、そんな風に思考を操作されてたんだとしたら?」
何を言わんとしているのかを図りかねて彼を見つめた。
セイゲルさんが落ち着いた目で私を見返してきた。
「豊かで張りのある胸、細い腰に長い手足。 お前は実際、街を歩いてると見知らぬ男からはよく声を掛けられていた。 そりゃそうだ。 こんな綺麗な顔の女だって滅多にいないからな。 だがそういう好奇の目さえすでに、お前にとっては恐怖だっただろう」
確かにチカンにはよくあった記憶はある。
手のひらで頬を包まれるも私は怪訝な顔をしていたと思う。