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──拝啓、支配様

第1章 1

「…………。はい?」

 脚が止まる。

 妙な悪寒が背筋に走り、上手く歩けなくなったそれを、大寺は目的の場所に着いたからだと勘違いして、瞳を上げた。

「あ、着いたみたいだね。駅から近いと便利だよね」

 今もそうだが、彼の口調はやけに明るい。だからまるで、明日の天気でも報せるような口調で“事件”と、いう言葉を告げたのだ。

 事件……。一体何のことだろう。何かあっただろうか。あったかもしれないが……。

 記憶にない。

 事件なんて毎日星の数ほど起きるのだから、一々覚えていられない。興味のない学校だったから下調べもしていない。

 親達からも特にそうした話題は出ていなかった。

 と、すれば瑣末な事なのだろうか……。

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