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──拝啓、支配様

第1章 1

 だからだろうか、テレビの向こうで凄惨な殺人事件が起こったところで、それは僕にとって画面の向こう側、隔たれた世界の話にしか過ぎなかった。

 ───しかし、こうなってから改めて思うのだった。

 本当は人間の方が恐ろしいのだ、と。

 言い知れぬ暗闇はいずれ朝日へと変わる。

 壁の染みは襲いかかってくるものでもなく、ただの染みでしかない。

 それこそ絵空事、ファンタジーでしかないのだ。

 ファンタジーでも何でもない。身近なものの方が、怖くて怖くて仕方のないものだ、と、僕は自ら経験するまで、理解できていなかったんだ。

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