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AI時代のヌードモデル

第2章 AIじゃ物足りない

少年がコンテを走らせている。

私は全裸になっている。

──息子の最初の裸婦画が合成AIの写生なんて嫌だ。

事務所の受付でそう言った日曜画家でもある父親は、美大に進んだ息子のために、私を雇った。
こだわりだな、と思う。

私も事務所のパソコンでAIモデル娘を視せてもらったけど、

ベッドでゆっくり寝返りをうつ彼女の乳房の変形の具合はリアルとなんら変わらなかった。
四つん這いにしてからのヒップの修正──どんな数値に変更しても、常に美しいフォルムを保った。

負けたな。

なぜなら、現実の人間である私の裸は、頭のなかで修正するしかないのだ。
観察力に加えて想像(創造)力が要る。

「詩織さん、乳房をお椀型にできない?」
「詩織さん、お尻はもっと小さくならない?」
現実には不可能だと知っているから、画家は最初からそういうリクエストをしない。

その点、AIヌード娘は変身してくれる。
バレリーナでも苦痛なはずの超絶ポーズにもなってくれる。

あえて生身の私を使う意味はあるのか。
教育熱心な父親には悪いが、疑問は消えそうもなかった。

自然体の立ち姿の描写が終わり、次は背面から。

臨時のアトリエになった少年の部屋には、やはり臨時の籐椅子が運び込まれていたが、
私は普通に座らせてもらえない。

私は椅子に正対して、高い背もたれに手をつき、座面に左膝をのせて、右足は伸ばして床につけた。

たんたんと進むデッサン。

顔は描かれないから、話をしてみる。

──AIは描いたことある? 描きやすかった?
──なかなか修正がうまくいかなかった。描きやすかったけど、物足りなかった。

少年の声はしっかりしていた。
そりゃそうよね。モデルの裸に動揺するようじゃだめだわ。

──それ、入学試験で?
──うん。
──ヌードは初めてだったの?
──3D映像としては初めてだった。

つまり、石膏デッサンあたりで経験を積んだと。

──裸には慣れてるよ。彼女がいるから。
──あら。
──でも、モデルにはなってくれない。コスチューム(着衣)でもだめだって。動かないでいるのがきついから、だって。

ふーん。それなのに裸を見ているということは、そういうコトよね。

世間一般の認識で解釈しようと思ったのだが、
実際はかなりのレアケースだったのだ。

全裸になってくれない彼女──

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