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ハズビンBL ルシアダ/アダアラ

第1章 ルシアダがチェスを興じて楽しく会話するだけ


 赤を基調とした古びた応接間の中央、長テーブルを挟んで向かい合う。服の色だけを見れば、相手が絶対的な善で、自分は漆黒の敵役と言ったところか。
「なあ、粛清が止まって地獄は良くなったと思うか」
 空中で止まっていた指が意を決したようにビショップをつまみ、誘うように剝き出しに孤立していたナイトを倒す。転がった馬の横面を一瞥してから、ルシファーは口を開いた。
「よくなるも何も、私は何も期待していなかった」
 緩慢に目線を盤面から這い上がらせる。
 ああ、昔から変わらない。
 ぴたりと視線が重なる。
 その目は人間には刺激が強すぎる。
「最初に失望させた奴ならわかっているだろう」
 ナイトを押しつぶすように手のひらに収め、次の番だと急かすようにつま先でテーブルの脚を小突いた。盤上の勢力は拮抗している。互いにポーンを四体ずつ失い、ルシファーはルークとナイトを一体ずつ、こちらはビショップとナイトを一体ずつ取られている。
 ここはそろそろ餌を撒いてクイーンを引きずり出したい局面だ。

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