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Kalraの怪談

第28章 二十八夜目:見下ろし桜

「その時、Aが悪ふざけで、俺の背中を押したんだ。すごいびっくりした。
 『ひゃあ!』って情けない声が出ちゃうくらいだった。Aはケラケラ笑っていた。見下ろし桜なんてやっぱ嘘かよって。」
「Aは自分が俺よりも強いってところ見せたかったんだろうと思うけど、屋上の端に立ってみせた。俺が情けなく四つん這いになっているところで、自分は立てるんだぜっていう感じで。俺はやっぱり怖かったからジリジリ後ろに下がったんだ。下がりながら、また、Aから押されることが怖くて、Aのことをじっと見ていた。早く逃げたいと思ったんだ。」
「その時、突然Aが『うわあ!』って言って、足から落ちたんだ。屋上から・・・。それで、ドサって音がして。Aは死んだ・・・」

「信じてほしいんだ。俺が何かしたんじゃないんだ。Aが勝手に落ちたんだ。」

きっと誰も信じてくれないだろうからと、Bは今までこのことを黙っていたらしい。
なんで今頃私に話したの?と尋ねると、

「実は、あの時、見たんだ。
 Aの足にまとわりつく腕と、男の顔を。男はまるで屋上の外からAを引っ張るようにしていたんだ。そのニヤリと笑う男と、俺は目があったんだ。」
「お前、不思議な話とか、よく知ってるだろう?あれはなんだろうって、すごく気になっているんだ。未だにたまに夢にも見る。そいつはニヤリと笑って俺の足にも手をかける」

Bは下を向いて唇を噛んでいました。心なしか肩も震えているようでした。もしかしたら自分も惹かれて死ぬかもしれない、その恐怖が私にこの話をさせたのでしょう。

わからないか、と言われても、分かるわけはありません。

結局、そう答えると、「そうか」と一言だけ言って、Bは帰っていきました。

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