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Kalraの怪談

第38章 三十八夜目:死神

☆☆☆
最初に「それ」らしきものを見たのは、D子が5歳頃だった。
D子の住んでいた東京都N区の町内に、ネコ好きのおばさんがいた。家に5匹位ネコを飼っていたようだった。おばさんはネコのほかは同居人はおらず、大人になった今から考えると、未亡人だったのかもしれない。町に住んでいる野良ネコの面倒もよく見てて、ネコと見ると近寄って、撫でている姿もよく目にした。
ネコだけではなく、子供も好きだったようで、小さいD子が通りかかるとよく声をかけてくれていた。
ある日、D子がそのおばさんの家の前を通りかかると、おばさんは家の前の掃き掃除をしていた。いつものように、D子ににこやかに声をかけてくれる。D子も挨拶をする。

ふと、D子が見ると、おばさんの後、これからD子が向かおうとしている道の先に、真黒いネコがいた。そのネコは道の真ん中でじっとして、こっちを、いや、多分、おばさんを見ていた。

何故だかわからないけど、D子には『あのネコはおばさんを見ている』と分かったのだ。
「あのネコ・・・」とD子が口にすると、おばさんは後ろを振り返り、また、D子に向き直って「どうしたの?」と言う。あれ程ネコ好きなのに、黒猫には興味を示さない。

『ヘンなの・・・』

と思ってもう一度道の先を見ると、もう、そのネコはいなくなっていた。

何日か後、D子がおばさんの家の前を通りかかると、おばさんの家に白黒の幕がかかり、ぷんと線香の匂いがした。黒い服の人が数人家の中に入って行く。幼いD子にとっては、葬式を見るのは初めてであったが、それでも、なんとなく普通じゃないことは分かった。

『おばさん、死んじゃったの?』

ネコはどうなるんだろう?稚心に心配になって、無駄だと思ったが、きょろきょろと周りを見回すと、おばさんの家の塀の上に一匹の黒猫を見つけた。あのときの黒猫だ、ととっさに思った。黒猫はじっとおばさんの家の中を覗いていた。D子はそのネコをじっと見ていた。

ふいに黒猫がD子の方に顔を向けた。この間は気づかなかったが、その両の眼は真っ黒だった。

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