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Kalraの怪談

第39章 三十九夜目:ゴーストアプリ

最初こそおしゃべりしながら歩いていたが、そろそろ疲れてきて、二人とも無口になっていた。あたりは暗く、ただ、二人が持っている懐中電灯の光の輪だけが道を照らしていた。
初夏だからか、虫の声も聞こえない。遠くで、フクロウの声が聞こえているだけだった。
唐突に視界がひらけた。

そこは台地になっており、奥の岩壁に縦横5m近い洞がポッカリと口を開けていた。洞の奥はよく見えない。入ってすぐに下り始めているようだった。誰もいない夜の山、そこに開いている洞の前に立つと、とても不気味だった。T子はリュックから大ぶりのろうそくとライターを取り出した。

洞の前にある少し大きめの石の上に火をつけたろうそくを供える。よく見ると、その石にはベッタリと白いろうがこびりついていた。以前、昼間に来たT子が供えたものかもしれない。
T子はろうそくを前に熱心に祈っている。その姿を見て、来るまでは不気味に思っていたL子も、ちょっと来てよかったと思った。アプリが本当かどうかは別として、これでT子の気が晴れるならいいかもしれない。

熱心に祈るT子。

ただ、少し長過ぎないか?5分以上経ったとき、さすがにL子もおかしいと思い始めた。
「ねえ、T子」L子が声をかける。
そのとき、T子がブツブツなにか言っていることに、ふとL子は気づいた。耳を澄ますと
「くらい、くらい、あな、あな、あかり、ちち、くらい、N、やま・・・」
まるで念仏のように抑揚のない声でつぶやいている。ぞっとして、L子はT子の肩を揺すった。

「ちょっと、T子、どうしたの!」

すると、ブツブツ言っていたTはふらりと立ち上がり、
「呼んでる・・・」
と、フラフラと風穴に入ろうとする。
L子は驚いて、それを必死に止めようとするが、ものすごい力でT子は進もうとする。L子を引きずる勢いだ。

「くらい、あな、ちち、N・・・からだ、からだ・・・」
「ちょっと、T子!何しているの!?」

L子は叫んだ。そしてついに、T子を引き倒し、頬を一発、張った。
T子はそれで正気に戻ったようだった。キョロキョロとあたりを見回して、目を丸くしている。

「行くよ!」

今度はL子がT子を引っ張るようにして山道を下った。麓に着いてからは、ふたりともほぼ全力疾走で街まで走って帰った。

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