
Kalraの怪談
第40章 四十夜目:死者の手稿
☆☆☆
店に戻り、K家の蔵書の仕分けや値付けを終えると、Cさんはふと、黒革の手帖を取り出した。手帳はB5版ノートサイズで厚さもそこそこある。一般的なビジネス用の手帳というよりも、野外で研究者が使っているフィールドノートのようであった。裏表紙の裏手に名前が書かれている名字はK家のもので、名は男性名でR、とあった。
書いた人はどうやら民俗学の研究者のようだった。日本のあちこちに出向き、民話や伝承を聞き、書き取っていたようだった。日付を見ると、昭和50年代に書かれたものだとわかる。几帳面な性格だったようで、聞き取った話それぞれについて、日付、場所、聞いた相手の名前や年齢はもちろん、そのときに印象に残った風景などの簡単なスケッチ、話を聞いた際に推測したことや考察などが丁寧に描かれていた。
例えば、
ーーーーーーー
昭和51年7月22日 N県S郡S村 G.Tさん79歳男性
Gさんが小さい頃に、村の大人から聞いた話とのこと。
ある年の夏祭りの終わりの日、村の若い衆が数人、S森に入っていった。入ったのを見た者がいるが、出てきたのを見た者はいなかった。村人は朝を待って森を探して回ったが若い衆を見つけることはできなかった。
何日かしてふらりと1人の若者が森から帰ってきた。聞いてもどこで何をしていたか覚えていないという。それどころか、何人で森に入ったかも覚えていないという。
ただ、1人よりは多かったはずだ、と語った。
しかし、村人に確認しても、この若者以外にいなくなった者はいないと口を揃えて言ったそうだ。
<考察>
Gさんの年齢から考えて明治から大正時代の話と推測。
一種の神隠し譚だろうと思われる。隣のH村にも同様の話あり。
ーーーーーーー
どうも、このRさんは伝承の中でも怪異譚に興味があったらしい。この他にも鬼の話や隠れ里の話、違う時代から来たのかもしれない男性の話など、奇妙な話を蒐集して回っていた。
特に興味を持っていたのは、この話のような「神隠し」だったようだ。所々に神隠しについての考察メモが記載されていた。
店に戻り、K家の蔵書の仕分けや値付けを終えると、Cさんはふと、黒革の手帖を取り出した。手帳はB5版ノートサイズで厚さもそこそこある。一般的なビジネス用の手帳というよりも、野外で研究者が使っているフィールドノートのようであった。裏表紙の裏手に名前が書かれている名字はK家のもので、名は男性名でR、とあった。
書いた人はどうやら民俗学の研究者のようだった。日本のあちこちに出向き、民話や伝承を聞き、書き取っていたようだった。日付を見ると、昭和50年代に書かれたものだとわかる。几帳面な性格だったようで、聞き取った話それぞれについて、日付、場所、聞いた相手の名前や年齢はもちろん、そのときに印象に残った風景などの簡単なスケッチ、話を聞いた際に推測したことや考察などが丁寧に描かれていた。
例えば、
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昭和51年7月22日 N県S郡S村 G.Tさん79歳男性
Gさんが小さい頃に、村の大人から聞いた話とのこと。
ある年の夏祭りの終わりの日、村の若い衆が数人、S森に入っていった。入ったのを見た者がいるが、出てきたのを見た者はいなかった。村人は朝を待って森を探して回ったが若い衆を見つけることはできなかった。
何日かしてふらりと1人の若者が森から帰ってきた。聞いてもどこで何をしていたか覚えていないという。それどころか、何人で森に入ったかも覚えていないという。
ただ、1人よりは多かったはずだ、と語った。
しかし、村人に確認しても、この若者以外にいなくなった者はいないと口を揃えて言ったそうだ。
<考察>
Gさんの年齢から考えて明治から大正時代の話と推測。
一種の神隠し譚だろうと思われる。隣のH村にも同様の話あり。
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どうも、このRさんは伝承の中でも怪異譚に興味があったらしい。この他にも鬼の話や隠れ里の話、違う時代から来たのかもしれない男性の話など、奇妙な話を蒐集して回っていた。
特に興味を持っていたのは、この話のような「神隠し」だったようだ。所々に神隠しについての考察メモが記載されていた。
