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Kalraの怪談

第42章 四十二夜目:黒い人

☆☆☆
時は流れ、私が小学3年生になった頃でした。
中学校に上がったばかりの姉が突然、学校に行かなくなったのです。今で言う不登校というやつです。都会ではさほど珍しくないのでしょうが、田舎ではそういった話はめったに聞きません。母も、祖母も、大叔母も大変困惑し、あれこれ手を尽くして姉を説得しようとしました。

が、姉は頑として学校に行こうとしませんでした。

結果的に、世間体が悪いということで姉は家の一番奥の部屋に押し込められ、学校には『病気になった』といって誤魔化し通そうとしていたようです。

姉は私にも事情を全く話そうとしませんでしたので、私もなぜ姉が学校に行かないのか、見当がつきませんでした。ただ、食事もあまり取らず、部屋から殆ど出ない様子だったので、実は本当に病気なのではないかと思っていたのです。

姉が学校に行かなくなって、3ヶ月程たった頃です。そろそろ夏休みという季節でした。
姉の通っている学校で、食中毒事件がおきました。生徒が20名ほど下痢や嘔吐を訴え、そして不幸なことに一人の女子学生が亡くなってしまったのです。

地方版とは言え、大きく新聞にも取り上げられたので、あなたの記憶にも残っているかもしれませんね。そして、その事件と関係があるのかないのか、姉は、1学期の終業式だけ、学校に行くことができたのです。

母と祖母はとても喜んでいました。夏休みの宿題だけを受け取り、テストも何も受けていないので、評価のつかない通知表を持って帰ってきた姉に対して満面の笑みで迎え入れたのです。姉もまんざらではない表情でした。
姉の嬉しそうな顔を久しぶりに見たので、私はとても安心しました。

ところが、それから、ちょっと姉の様子が変になったのです。
どこが、というと説明しにくいのですが、ちょっとした言葉遣いや仕草、振る舞いが、以前の姉と違うのです。

例えば、前の姉だったら「醤油とって」と言うところを「お醤油をとって」と言うとか、夜、着替えを準備してから寝ていたのが、朝に準備するようになるとか、その程度なのですが、日常生活の端々で、おや?と思うことがあったのです。

それはそうと、夏休み中、姉は元気に過ごし、今までは一人で摂っていた夕食も家族と食べるようになりました。引きこもっていたせいか、若干やつれたように見えましたが、顔色もよく、本当に元気になったんだなと思いました。

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