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Kalraの怪談

第42章 四十二夜目:黒い人

姉が、制服姿のまま、こちらに背を向けて、なにかの上にかがみ込んでいます。クチャクチャという音は姉が発していたようです。
「お姉ちゃ・・・」
言いかけて私は固まりました。姉が覆いかぶさるようにしている下にいるが、祖母だとわかったのです。そして、畳が流血で真っ赤に染まっていることも。

息を呑む私に気づいたのか、『姉』が振り返りました。
その時の光景は生涯忘れないでしょう。
姉の口元は真っ赤に染まっていました。もちろん祖母の血です。
ここに来て、ようやく私は理解しました。
姉は、祖母を喰っていたのです。
強烈な違和感があったのは、姉の表情です。口は真っ赤に染まっているのに、目つきや表情は普通の姉のままでした。まるで、普通に食事をしているところに、妹が帰ってきたので振り返った、そんな風でした。
実際に、
「おかえり」と笑顔で言うのです。

私は腰を抜かしたのか、その場にヘナヘナと座り込んでしまいました。人間は怖さの限界を超えると、本当に立っていられなくなるんだなと妙に感心した記憶があります。
そんな私を尻目に、姉はまた、クチャクチャと祖母を喰らい始めました。
『逃げなきゃ』
そう思っても体が言うことを聞きません。このままじゃ、と思っていると、後ろから大きな手で抱きかかえられ、客間から引きずり出されました。

そこには大叔母がいました。
私が声を立てようとすると、「しっ」と人差し指を口に当て、
「静かに。そっと離れれば大丈夫だから。あれは、すぐには襲ってこないよ」
そして、そのまま台所まで抱きかかえるように連れて行かれました。
「大叔母さま、あれ、あれ・・・・」
私はやっと声が出ました。大叔母は、ため息をつくと、こう言いました。
「いいかい、すぐに、ここから離れるんだ。お母さんは村の寄り合い所に行ってるはずだから、そこにいくと良い。お母さんと、お父さんには、『お姉ちゃんがアレに入れ替わられた』と、伝えておくれ」

そして、流しの下から一番大きな出刃包丁を取り出すと、
「あたしがいながら・・・済まないね・・・」
そう言って、客間に向かっていったのです。

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