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Kalraの怪談

第42章 四十二夜目:黒い人

☆☆☆
おばあちゃんから聞いただろう?黒い人の話。
あの、黒い人は、バケモンなんだ。
私達のご先祖様は、アレに「村のみんなが飢えないように」と願っただろう?食い物と引き換えに、と。そして、村に帰ってみると、村人の半分が死んでいたって話さ。
そう、みんな、飢えなくなったよ。生き残った人はね。
ご先祖様は頭を抱えた。絶望して慟哭したそうだ。
でも、悲劇はこれだけじゃなかったんだよ。数日後、アレがご先祖様を訪ねてきた。

これは家族も見ていたらしい。真っ黒い何かが主と話している。そして、いつの間にかいなくなっていた。不思議に思ったが、それから、落ち込んでいた主が元気になったので、家族は胸をなでおろしたらしいよ。雨も降るようになり、なんとか、飢饉を脱することができたのも幸いした。

でも、その後だ、主には変化が起きた。

まず、よく食うようになった。前の2〜3倍は喰うようになったらしい。飢饉を経験し、食い意地が張ったのだろうと最初は思われていたようだ。でも、そんなに喰っているのに、どんどん痩せていったっちゅうことだ。
どっかで聞いた話だって?そう、お前の姉さんと同じだ。
そんな事があってから数年が経った。主には息子が2人、娘が1人できたそうだ。主の変化は大食らいになったくらいだったので、さほど問題はなかったらしい。

そんなある日、旅の坊主が家に泊まることがあった。
その坊主は、主に面通りをすると、驚いたような顔をしたという。
そして、こっそりと、主の妻に言った。
「旦那さんは、物の怪に憑かれとる。いや、取って代わられとる」
主の妻は、数年前の飢饉での出来事、その後の主の様子などを坊主に話した。坊主は得心した様子で、
「黒い人が訪ねてきたとき、本当の主は殺され、そいつが主の皮を被っているんだ。ああいう物の怪は身体がない。身体がないから物も喰えん。だから、主の体を奪って物を喰うてるんだ。もう、あれからは獣の匂いがする。そのうち、人を喰うようになるかもしれん。」
と言うた。主の妻は震え上がった。そういえば、主の所作が前と違うと思うことが多々あったのだ。

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