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Kalraの怪談

第49章 四十九夜目:鬼の宿

【鬼の宿】

何年か前に大学の後輩Sから聞いた話。

Sは文学部の文化人類学講座の院生で、今では某大学の助教として勤務している。文系の大学院卒としては非常に恵まれていると思うので、とても優秀だったのだろう。

これはSの更に後輩の実体験らしい。

体験者を仮にA君としよう。
A君もまた、Sと同じ文化人類学教室の院生であった。A君も優秀であったようだが、どうにも要領の良さに欠け、教授との折り合いも悪かったようで、なかなか浮かばれなかったようだ。

特にそのころは、せっかく書き上げた論文を教授に横取りされるようなかたちで発表されてしまい、失意に沈んでいたようだった。ただ、A君には研究室こそ違うが、同じ学部で民俗学を研究しているBさんという恋人がいた。付き合いも長く、収入さえ安定すれば結婚するんじゃないかと噂されていたらしい。

BさんもA君が落ち込んでいるのを気にしており、また、励ます意味もあったのだと思うけど、A君の実家に行きたいと言い出したようだった。
実は、A君の実家は関東北部の旧家で、昔から絹や布を扱う大店だったようで、Bさんの専門である民俗学的にも興味深いところがあった、というのがおまけの話であったようだった。

そんなわけで、ある年の1月下旬、A君とBさんはA君の実家にお邪魔することになった。
さすが歴史のある大店というだけあって、史跡、とまではいかないが、旧家然とした佇まいの家屋で、Bさんはたいそう喜んだそうだ。A君の実家には、父親、母親、そして、まだ中学生だというA君の下の妹、それから、ひいおばあさんが同居していた。祖父は戦争で早くに亡くなり、祖母も数年前に他界したということだった。

家族仲は良いようで、久しぶりに帰ってきたA君と、その未来のお嫁さんを囲んで、和やかに食事をしたりしたようだった。ひいおばあちゃんは、90を超えた高齢でもあり、若干認知症ぎみのところもあったが、まだまだ元気だった。特にA君をかわいがっていたようで、何かにつけて、「〇〇家の大切な跡取りだから」と言っていた。

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