
Kalraの怪談
第53章 五十三夜目:縫いの化け物
☆☆☆
Aさんよりだいぶ年下の後輩で、S子さんという女性警察官がいた。S子さんは関東北西部の出身で、当時はまだ珍しかった女性刑事を志して上京したという、なかなかに気骨のある人物だったようだ。
「そいつが、なかなかに不思議な能力の持ち主でな」
Aさんが言うには、S子さんは殺人事件や暴力犯の被疑者の目星をつけるのが天才的に上手だったそうだ。まだ、交番勤めの巡査だった頃からその能力は発揮されていて、S子さんが「あいつにバンかけましょう(註:職務質問しましょうという意味らしい)」と言って、声を掛けると、十中八九、手荷物の中からナイフやらカッターやらといった凶器が出てきたというのだ。一度など、近隣の小学校で飼っている動物の連続殺傷事件の被疑者を巡回中に見つけて逮捕し、署長賞に輝いたこともあったようだ。
警察学校を卒業してすぐの巡査としては異例のことだという。
『何でそんなのがわかるんだ?』
と先輩連中から聞かれても、S子さんは曖昧に笑ってごまかすだけだったそうだ。
「そんなわけで、あっという間に彼女は希望通りの刑事課に配属になってきた。そんとき、俺はまだ警部補で、所轄の刑事係長だったんだけどな。まあ、素直で優秀なヤツだった。」
ただ、上司であるAさんに対しても、S子さんは被疑者を言い当てられる秘密を頑として言わなかったという。
「でも、あるきっかけでそれが判明したんだよ」
それは、AさんとS子さんが、ある殺人事件の容疑者の自宅近辺で張り込みをしていたときのことだった。その事件は、老夫婦が寝ているとき、侵入してきた何者かによって鈍器のようなもので撲殺され、さらに包丁で手足を切り取られる、という凄惨極まりない事件だった。
Aさんたちの調べによって、近所に住む40代の無職の男性が、事件当日から自宅に戻っていないことがわかり、容疑者として浮上してきていた。
ただ、彼を犯人と断定する決定打はなかったので、男を発見次第、職務質問をし、任意同行を求める、という筋立てを考えていた。
Aさんよりだいぶ年下の後輩で、S子さんという女性警察官がいた。S子さんは関東北西部の出身で、当時はまだ珍しかった女性刑事を志して上京したという、なかなかに気骨のある人物だったようだ。
「そいつが、なかなかに不思議な能力の持ち主でな」
Aさんが言うには、S子さんは殺人事件や暴力犯の被疑者の目星をつけるのが天才的に上手だったそうだ。まだ、交番勤めの巡査だった頃からその能力は発揮されていて、S子さんが「あいつにバンかけましょう(註:職務質問しましょうという意味らしい)」と言って、声を掛けると、十中八九、手荷物の中からナイフやらカッターやらといった凶器が出てきたというのだ。一度など、近隣の小学校で飼っている動物の連続殺傷事件の被疑者を巡回中に見つけて逮捕し、署長賞に輝いたこともあったようだ。
警察学校を卒業してすぐの巡査としては異例のことだという。
『何でそんなのがわかるんだ?』
と先輩連中から聞かれても、S子さんは曖昧に笑ってごまかすだけだったそうだ。
「そんなわけで、あっという間に彼女は希望通りの刑事課に配属になってきた。そんとき、俺はまだ警部補で、所轄の刑事係長だったんだけどな。まあ、素直で優秀なヤツだった。」
ただ、上司であるAさんに対しても、S子さんは被疑者を言い当てられる秘密を頑として言わなかったという。
「でも、あるきっかけでそれが判明したんだよ」
それは、AさんとS子さんが、ある殺人事件の容疑者の自宅近辺で張り込みをしていたときのことだった。その事件は、老夫婦が寝ているとき、侵入してきた何者かによって鈍器のようなもので撲殺され、さらに包丁で手足を切り取られる、という凄惨極まりない事件だった。
Aさんたちの調べによって、近所に住む40代の無職の男性が、事件当日から自宅に戻っていないことがわかり、容疑者として浮上してきていた。
ただ、彼を犯人と断定する決定打はなかったので、男を発見次第、職務質問をし、任意同行を求める、という筋立てを考えていた。
