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Kalraの怪談

第53章 五十三夜目:縫いの化け物

「今風に言えばニートっていうのかな。当時は引きこもりとか、オタク族とか言っていたと思う。年金ぐらしの母親と同居して昼夜逆転でブラブラしていたから、物盗り目当ての犯行だと俺達は踏んでいたんだ。」

ところが、車中でAさんと張り込みをしていたS子さんは、車の脇を自転車で通り過ぎた中学生くらいの男性を見るや『A係長、あいつ・・・』と言って、慌てて車を降りた。そして、おもむろにその男性に職務質問をし始めたという。
警察手帳を見るや、その男性は強引に自転車を走らせて逃げようとしたので、少し遅れて飛び出したAさんと一緒に、その男を確保した。

「取り調べの結果、遺留指紋のひとつが、その中学生のものと一致したんだ。つまり、そいつが犯人だったんだ」

さすがのAさんも、問いたださざるをえなかった。なんの変哲もない男子中学生をどうして怪しいと踏んだのか。考えたくないが、場合によってはS子さんが事件に関係している可能性まで捜査陣の中では議論されていたのだ。

「そしてとうとう、俺だけに話してくれたんだよ」

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