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Kalraの怪談

第55章 五十五夜目:現身の桜〜うつしみのさくら〜

【現身の桜〜うつしみのさくら〜】

先日、久しぶりに高校の同窓会に行った。
私の通っていた高校はさほどよいランクではなかったので、皆が皆大学に行ったわけではなかった。半数位が専門学校、1割位は就職組もいた。
必ずしも頑張って受験して大学に行った人が幸せになっているとも限らず、専門学校に行った人が、その後、割と良い企業に就職し、それなりの地位で働いていたりするから面白いものである。

そんな同窓会での再会の時、特に印象に残ったのがT君だった。
T君は私の記憶では高校時代、若干やんちゃだった。いわゆる硬派の不良というわけではなく、適当に楽しいことをして過ごそうといった感じの軟弱な不良だった。
当然、勉強はせず、成績はいつも最下位クラス。遅刻や欠席も多いことから、卒業も危ぶまれていたが、まあ何とか卒業し、確か名前さえ書けば入れるような専門学校に行ったと思った(なんの学校だったかは良く覚えていない)。

ところが、同窓会で再会したT君は、三つ揃えのスーツを着こなし、髪の毛もきめていた。そして、地方銀行とは言え、一応銀行員、しかも肩書きは支店長ということで、大分、人は変わるものだと思った。

同窓会の席で、私はたまたまT君の近くに座ることになった。私以外の者も皆一様にT君の変貌に驚いたようで、T君は周り中から『一体どうしたんだ?』と質問攻めにあっていた。
ところが、当のT君自身は『いやー』とか、『たまたま運が良いだけで…』など適当にお茶を濁すばかりで、変貌の原因については結局わからずじまいだった。

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