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Kalraの怪談

第55章 五十五夜目:現身の桜〜うつしみのさくら〜

☆☆☆
「どういうこと?って、顔しているな」
T君はだいぶん酔ったようなトロンとした目で私を見た。
「結論を言うとな、1週間たって実家に帰ってきたら、母が死んでいたんだ。急性心筋梗塞だとさ」
グラスに残ったカクテルを煽る。もうここに来てから3杯目だ。

「帰ってきた俺に祖母が言った。
あの桜は特別なんだ。『現身の桜』だ。
願いをかければ姿をとられる。
姿をとられれば生命を取られる。
きちんと祀れば家は栄えるが、我欲で縋れば家を滅ぼす。
そういう存在だ。
もう、お前の姿はずいぶん取られていた。あんなになるまで儂らは気付かなかった。
もう、取り返すには、人一人分くらいの命が必要だったよ。
儂じゃ足りない。
だから、S子さんが身代わりになったんだよ。
馬鹿なことをしたな。お前。
本当に、馬鹿なことをしたよ・・・。」

「確かに、アレはもう見なくなった。俺の姿を写した『アレ』はな。でも、桜の季節になるといるんだよ。
母の姿をして、あの桜の下でニヤニヤと笑いながら手招きをしている、あいつが」

だから、歴史ある家だったけど、土地ごと売っちまったよ
T君は辛そうにそう言った。

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