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Kalraの怪談

第56章 五十六夜目:曲がり屋敷

【曲がり屋敷】

地方の国立大学に入り、周囲に誰も知っている人がいない中、寮で初めて友だちになったのが、T子だった。T子は理学部、私は国文学部だった。
専攻も違うし、趣味も違う。サークルも一緒ではなかったが、最初に知り合った縁で、大学2年になった今でも彼女との付き合いは変わらずに続いており、この大学での一番の親友といってもいいかもしれない。

私は東京出身だったが、T子は地方のS県の出身だった。東京もS県も私達が通っている大学からはかなりの距離があり、帰省するには夏休み等のまとまった時間が必要だった。今年は2年生の夏休み。就活を考えると、3年生の夏休みはそうそうのんびりもしていられないだろう。私達は、夏休みをどう過ごすかについて早くから二人で計画を立てていた。

1年生の夏休みは、まだ大学にも慣れていないし、一人暮らしの侘しさもあり、東京の実家に戻っていたが、その後はこちらの生活もそれなりに楽しくなり、実家に帰ろうという気にはならなかった。現に、私は1年生の冬休みは結局大学の寮に残ったままでバイトやサークル活動に精を出していた。

一方、T子は長い休みになると必ず実家に帰るようにしているようだった。彼女曰く、父や母もそうだが、祖母と祖父が寂しがるというのだ。
東京の核家族で過ごした私としては、T子が言う、祖父と祖母、それに親戚家族までも同じ家屋に住んでいるという暮らしはちょっと想像がつかなかったが、国文学を専攻する身としては、そういう旧態然とした歴史ある家柄に興味はあった。

そんな話をしていたからだろうか、話の流れから今年の夏、T子の実家への帰省に合わせて、私も付いていってT子の家にお邪魔させていただく話になった。S県には、たくさんの古い神社や史跡があるということで、そういうのが好きな私はこの小旅行にワクワクしていた。

ところが、その話があった数日後、T子から「家に泊めることはできない」と唐突に言われた。どうやら、実家に電話したら、反対されてしまったようだった。T子は言いにくそうに私に謝ってきた。

私としては、別にT子の家にどうしても泊まりたいということではないし、泊まれないなら、駅前のホテルか旅館にでも泊まろうと思うだけなので気にしなくていいと請け合ったのだが、最後までT子は『ごめんねー』と繰り返していた。

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