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Kalraの怪談

第56章 五十六夜目:曲がり屋敷

☆☆☆
前期試験を終え、晴れて自由の身になった私達は、8月のお盆前にはS県に旅立った。市内のホテルに二人で2泊し、おおよそ2日かけて市内の観光地や史跡を巡った。2日目の昼過ぎにT子の実家にお邪魔することにした。

T子の実家は市内からローカル線とバスとを乗り継がないと辿り着かないような場所であり、当のT子をして『辺鄙なところなのよ』と言わしめるのも納得だった。しかもT子の家の近くに行くバスは一日に5本しか通っていない。

確かに、東京の感覚では考えられない田舎だった。
最寄りのバス停で降りて、少し小高い丘を登ると、そこがT子の実家だった。T子の実家はぐるりと黒々とした立派な塀に囲まれ、門扉も錚々たるもので、私が話に聞いて想像するよりもずっと大きかった。

T子によると、敷地の中に江戸時代に作られたという蔵が2つも現役で残っているというのだ。
門をくぐると、すぐに広々とした中庭が目に入った。中庭をぐるりと取り囲むように家屋の渡り廊下が見て取れた。右手にこんもりとした木立があり、その向こうが玄関なのだという。玄関には広々とした天然石の三和土があり、民家の玄関というよりは、時代劇で見る大名屋敷のたたずまいを思い起こさせた。

「ちょっとすごいでしょ?」
T子は笑って言った。
「でもね、中に入るときっともっと驚くよ」
T子は玄関の引き戸を開き、「ただいまー」と大きな声で言う。きっと広いからこれくらいの声でなくては届かないのだろう。
すると、すぐ右手から、50代くらいの品のいい着物を着た女性が現れた。
「K子さん、ただいま」
T子が靴を脱ぐので、私もそれに倣う。T子の話しぶりから察するに、どうやらこの人はお手伝いの人か何からしい。そのK子さんに連れられ、私達は屋敷の奥へと案内されたのだが、たしかに私は驚いた。

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