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Kalraの怪談

第56章 五十六夜目:曲がり屋敷

☆☆☆
結局、私はT子と同じ部屋で一晩過ごすことになった。パジャマはT子のものを借りた。さすがに下着まで借りるわけにはいかないので、それは着古したもので我慢するしかなかった。
この家は風呂も広く、私とT子が二人で入っても余裕だった。昨日まで泊まっていたホテルは風呂が狭かったので、私としてもありがたい。長旅の疲れも癒えるようだった。バスが無くなったのは事故だったが、こうして泊まれたのはラッキーだったのかもしれない。
「ねえ、T子」
私はふと先程のことが気になって、湯船から、体を洗っているT子に尋ねた。
「なんで、夜中の12時から外に出ちゃだめ、とか、そういうルールがあるの?」
「さあ、うちができたときからずっとそうしていたみたい。なんかの験担ぎなのかな?」
T子はザバっとかけ湯をしながら応えた。
「ふーん」
験担ぎにしては、随分真剣だったなと思う。まあ、おじいちゃんおばあちゃんは昔の人だから、そういうのを気にするのかな・・・。

風呂から出てパジャマに着替える。部屋に戻ると布団が敷いてあった。まるで旅館のようだ。私達は布団にコロコロと横になりながらもなかなか寝付けず、他愛のない話をし続けた。
ふと、スマホを見ると、11時30分を回っている。もうすぐ、部屋から出るな、と言われていた真夜中に近くなった。そろそろ寝ようかということになり、部屋の明かりを消して、私達は薄い上掛けをかけた。部屋は適度にエアコンが効いていて、心地が良い。

ところが、すぐに眠気が襲ってくるかと思ったのだが、慣れない広い旧家にいるせいか、なかなか寝付けなかった。隣に寝ているT子はすぐにすーすーと寝息を立てており、私はなかなか眠れないなか、布団の中で何度か寝返りを打っていた。

広い旧家の真っ暗な部屋はなんだか少し怖かった。
何度目か、寝返りを打ったときだった。
きーぱったん、きーぱったん
なにか奇妙な音がした。
遠くから、音がする。それは、床を伝って、枕に響いてくる。
そんなに大きくはないけど、それでも、気のせいとは思えないほどの明瞭さで。
きーぱったん、きーぱったん
「・・・じゃろな」
反対の耳が別の音を捉えた。
何かの声?
きーぱったん、きーぱったん
「・・・どこじゃろな・・・。どこじゃろな」
間違いない。誰かが廊下を歩いている。

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