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Kalraの怪談

第56章 五十六夜目:曲がり屋敷

確認してはいないが、おそらくもう12時は回っている。無闇に外に出るなというルールがある家で、一体誰が歩いてるのだろう?
きーぱったん、きーぱったん
声はなおさらはっきり聞こえてくる。
「どこじゃあ・・・どこじゃろな・・・」
その声は低く歌うような声だった。おそらく、部屋の前の廊下を歩いている。

『1つ目は、夜12時以降、夜が明けるまでは無闇に部屋から外に出ない』
『2つ目は、夜、なにかに声をかけられても声を出してはいけない』
『3つ目は、夜、窓や扉を決して開けてはならない』
T子の祖母の声が耳に蘇る。

『ナニか』に?
『誰かに』ではなく?

「どこじゃあ、どこじゃあ・・・ここじゃろか・・・」
カリカリと壁をひっかくような音がする。
震えが来る。隣のT子を起こしたくても身動きができない。ましてや声も出ない。

『ナニか』がいる。

きーぱったん、きーぱったん。
もう、部屋の前まで来ている。
「ここじゃろか・・・ここじゃろか・・・」
カリカリとふすまを引っかく音。
「ひいっ!」
私は思わず息をのんだ。その拍子に思わず大きな声が漏れてしまった。
T子!起きて!T子!!!
「あああ・・・」
『ナニか』が声を上げる。カリカリとふすまをひっかく音が大きくなる。
「ここかあ・・・ここかああ・・・ああああ」
カリカリカリカリ
ガリガリ
ガガガリリリ

『ナニかに声をかけられても声を出してはいけない』
声・・・、もう、耐えられなかった。
「T子!起きて・・・起きて!」
私は声を上げていた。
「んん・・・?」
T子は目をこすりながら私を見上げる。私は部屋の明かりをつけた。
途端、『ナニか』の気配は霧散した。
「なによ・・・」
T子は寝ぼけ眼で私を見る。おそらくこのときの私は顔面蒼白だったに違いない。
私は夢中で、今あったことを話した。
T子は襖を開けて、廊下の右左を見やる。私も恐る恐る見るが、そこには何もいなかった。
「なんにもいないじゃない」
寝ぼけたんでしょ?とT子はさっさと寝てしまった。
私は、なかなか明かりを消すことができず、悶々としていたが、結局、T子の言うように寝ぼけたのだろう、と自分に言い聞かせ、再度、明かりを消して、眠りにつくことにした。

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